目前に迫った今世紀最大の天文ショー、皆既日食。日本では46年ぶりに観測できるため大きな注目をあびているが、通算49回目の日食観測を迎えようとしている専門家がいる。米国ウィリアムズ大学のジェイ・パサコフ教授だ。パサコフ教授は、これまで30年以上にわたり、皆既日食を観測し続け、皆既日食時にだけ見ることができる太陽の「コロナ」の研究に取り組んできた。今回、パサコフ教授は中国杭州にて観測を行うため1週間ほど前から準備を行ってきた。太陽最大の謎といわれる「コロナ加熱問題」の解明に挑むパサコフ教授に今回の観測にかける意気込みを語ってもらった。
コロナ加熱の謎に挑む専門家パサコフ教授
中国杭州にて、皆既日食の観測を行うパサコフ教授
— はじめて皆既日食を観測したのはいつでしたか。
ハーバード大学に入学した2週間後に大学の教授に連れられて飛行機観測を行いました。その体験が日食に興味を持つきっかけとなりました。はじめての観測の際は、日食という不思議な現象にとても感動を覚え、それと共にとても早起きした記憶が今も残っています。
— 日食の魅力とはどこにあると思いますか。
これまで見てきたどの日食もすばらしく、48回それぞれに違うストーリーがあります。太陽はいつも違う姿を見せてくれるのです。日食の一番の魅力は、なんと言っても昼にも関わらず突然周囲が暗くなるということにあるでしょう。それに加えて、シャドーバンドが自分に向かって迫ってくる様子やダイヤモンドリングの輝きは幻想的で、見た者すべてを虜にします。また、普段は見ることができず、皆既日食時でさえ、親指で隠れてしまうくらいの大きさしかないコロナが、太陽から何千キロもの速さで地球にやってきていることを考えると非常に感慨深いのです。
※シャドーバンド:皆既までの残り時間が1〜2分ほどになったときに見ることができる縞模様の影
49回目の皆既日食 観測にあたって
観測に向け設置されている撮影機材
— 観測地として中国杭州を選定した理由。
この地を選んだ最大のポイントは、天候はもちろんですが、都会から離れているため、スモッグの影響なく観測できることです。また、多くの特殊な機材の設置が必要なため、広大かつ人通りの少ない環境であることも重要なポイントでした。2年前に妻とともに杭州に訪れた際に、中国の天文学者に案内してもらったのがきっかけです。私がこの場所を観測場所として選んでから、ギリシャ、インドなどの観測チームも集まってきました。
— 日食観測は天候に左右されるのでは。
意外と思われるかもしれませんが、成功率はきわめて高く、毎回ほとんど問題なく観測できています。その秘訣は観測ポイントの選定にあります。場所の選定には、他の研究者と情報交換するとともに、その地点の過去の天候なども十分考慮しています。
— 新たに投入した観測機材などはあるのでしょうか。
少しずつさまざまな機材を購入してはいますが、資金は不足しているというのが現状です。今回の観測では、NASAからの助成によって、より高感度のカメラを導入できました。高感度カメラによって、今回の日食だけでなく、太陽系の外側にある惑星の観測も行います。
— いつまで日食の観測を続けたいとお考えでしょうか。
2043年にちょうど100歳になるまで観測し続けることが私の目標です。それまでに金環日食なども含めるとあと50回は見ることができるのではないかと考えています。
太陽最大の謎「コロナ加熱問題」に挑む
パサコフ教授と共に観測を行うギリシャチームの機材
— 教授が行ってきた最近の観測で解明されてきた事実など教えてください。
現在、コロナ加熱の原因として考えられている仮説には面白いものが数多くあります。結果はいずれ研究の成果が証明してくれるでしょうが、われわれの行っている研究がコロナ加熱の謎の解明に結びつけばと考えています。私たちのチームが行っている数回前の観測から、磁場の中の振動を確認できており、それが加熱の原因ではないかと考えています。今後、さらに観測を続けて、仮説を立証したいと思います。ただし、皆既日食自体がそんなに頻繁に起きる現象ではないので、データがまだまだ不足しているという状況です。
そこで今回は、コロナループ内の早い振動を観測する予定です。コロナ加熱の仮説の一つがこの早い振動で起きているのではないかと考えられているため、振動が起きている間隔を測定することで、それが正しいかどうかを確かめることができます。また、今回はより高画質のイメージでコロナの動きを確認する予定です。
すでに次回の皆既日食の準備に入っているパサコフ教授
— どのような分野で研究成果の活用を期待されますか。
結果は論文で発表して、研究者で情報共有しています。最近は、論文集や専門誌で掲載されるだけではなく、インターネット上でも研究成果を公開しています。私の研究チームで行うのは、主に基礎データの収集で、そこから得られたデータを利用して、ほかの研究者などが分析などを行っています。コロナの広がりには太陽の磁場が深く関わっていると考えられているため、高温ガスでできているコロナのストリーマー(流線)を観察することで、太陽の磁場の働きを把握することが可能となります。一方、核融合炉の開発では高温ガスを抑える方法を模索しており、太陽の動きを研究することによって、その解決のための糸口が見つかるのではないかと考えています。つまり、太陽のコロナに関する研究が、次世代エネルギーとして期待されている核融合炉の開発につながるかもしれません。
— 最後に次回の皆既日食についてお聞かせください。
次回の皆既日食は、チリ、アルゼンチン、およびイースター島などの島々で2010年7月11日に観測できる予定です。天候、地理などの条件を考慮した場合、陸地ではイースター島がもっとも観測に適している場所になります。少し先になりますが、私たちの観測チームは、イースター島を観測ポイントとして選び、すでにフライトやホテルの手配などの観測に向けた準備を着々と進めています。