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太陽の謎に挑む

太陽最大の謎「コロナ」

身近な存在に感じる太陽だが、実はまだ解明されていない現象がたくさんある。中でも太陽最大の謎とされるのが太陽の外側に広がる大気の層「コロナ」だ。コロナは太陽の外側にありながら、100万度以上の高温を維持している。太陽の表面である光球の温度が6000度とされているので、なぜ外側の大気のほうが高温になっているのか天文学者の間でも長年謎とされてきた。その謎の解明のため、これまでに皆既日食を48回も観測してきた専門家がいる。米国ウィリアムズ大学のジェイ・パサコフ教授だ。彼は、コロナ研究のために、文字通りその半生を捧げており、皆既日食を観測するために世界中を旅している。

コロナ研究の第一人者 ジェイ・パサコフ教授

2006年、ギリシャで日食観測を行うパサコフ教授

2006年、ギリシャで日食観測を行うパサコフ教授

Image from Williams College (Williamstown, Massachusetts, USA) Eclipse Expedition.

パサコフ教授がはじめて皆既日食を観測したのは1959年のことだ。学生であった彼は当時師事していたドナルド・メンゼル教授がマサチューセッツで行った皆既日食の飛行観測に同行した。その調査で彼は生まれて初めて皆既日食を目撃し、すぐにその魅力に取り付かれることになった。以降日食を追いかけて世界中で観測を行っている。彼が特に注目しているのは、皆既日食中にだけ見ることができる太陽の大気「コロナ」の研究である。
コロナにはいまだに解明されない太陽最大の謎がある。「コロナ加熱問題」といわれる現象だ。コロナ加熱については、これまで大きく分けて2つの説が有力とされ研究が進められてきた。一つ目が光球における波がコロナで放散され加熱させるという「波動加熱説」、もう1つが小さな爆発(フレア)が無数に発生することで加熱されるという「ナノフレア説」だ。波動加熱説については、波動の種類によってされに3つに細分化されている。しかし、いずれの説も、観測で得られている結果を立証するにはいたっておらず、この問題には決着がついていない。パサコフ教授は、コロナの高周波振動を測定することでどの説が正しいのかを立証しようとしている。

プロフィール
ジェイ・パサコフ(Jay M. Pasachoff)
天文学者、ウィリアムズ大学教授
国際天文学連合 皆既日食ワーキンググループ代表

これまでの経歴
1963 Harvard College A.B.
1965 Harvard University A.M.
1969 Harvard University Ph.D.
2003 Education Prize, American Astronomical Society
2003 Honorary Member, Royal Astronomical Society of Canada
2003-2006 President, Commission on Education and Development of the International Astronomical Union

また、パサコフ教授は、コロナの輝線として現れるグリーンラインにも注目している。輝線というのは、原子が高温で熱せられた際に放つある特定の波長の光のことで、太陽の場合は鉄などが光を発している。輝線として発せられる光の色は、たとえ同じ物質から発せられた光であってもその温度によって変化する。したがって、この輝線の観測を行うことによって、コロナ内部の温度分布の様子がわかるというわけだ。

今回、パサコフ教授の研究チームは、シドニー大学のロバート・ルーカス氏の協力を得て、グリーンラインの撮影に臨む予定だ。観測には、バンドパスフィルターと呼ばれる特定の波長のみを通すフィルターをレンズに取り付けて行われ、フィルターを付けた状態と外した状態のコロナを比較分析することによって、温度分布の様子を把握することが可能となる。
この他にも、世界各国の研究者と協力し、さまざま種類の望遠レンズを利用して、コロナの撮影を行う予定だ。教授の研究チームは、すでに今回の観測地である中国杭州に入り、観測の準備を進めている。

情報ソースおよび関連情報サイト
・パサコフ教授の研究チームがこれまでに撮影した写真
 Williams College Solar Eclipse Expeditions(英語)
・過去の皆既日食をマップで確認する
 International Astronomical Union(英語)
・パサコフ教授のこれまでの著書
 Pasachoff.com(英語)

コロナ観測の歴史

輝線の発見

太陽の輝線の観測は、1868年にフランスの天文学者ピエール・ジャンサが日食観測中にヘリウムから放たれる黄色の輝線を発見したことから始まった。その後、太陽の輝線の中にはヘリウムから放たれる輝線とは別の要素で発生するものが含まれていることがわかり、未知の物質“コロニウム”による現象だとされた。
コロニウムの正体は長い間明らかにされてこなかったが、1940年スウェーデンの物理学者ベンクト・エドレンによって、それら太陽の赤や緑の輝線は鉄の原子が電子を失った際に発せられる光であることだと解明した。この発見は、輝線の秘密を解明すると同時に新たな太陽の謎を天文学者たちに問いかけることになる。それが今日まで続くコロナ加熱問題の発端となった。
なぜ、輝線の秘密を明らかにすることが新たな謎を生み出すことに繋がったのか。それは、鉄が赤色の輝線を発するためには100万度もの温度が必要であり、また緑色の輝線を発するためには、なんと200万度という高温が必要となるからである。太陽の表面(光球)の温度が約6000度だと考えられているため、それよりも上空にあるコロナの温度がなぜそれほど高温になっているのかについては、天文学者の間でも長い間説明不可能な現象であった。この謎を解明しようと、今日至るまで、パサコフ教授をはじめとする、多くの天文学者がコロナの研究を続けている。研究者たちが必死になるのは、太陽の磁場が維持しているのではないかと見られているコロナの熱量維持のプロセスが再現できれば、次世代を担うエネルギー源として期待される核融合炉の開発に結びつくのではないかと考えられているからだ。また、パサコフ教授は、太陽の仕組みが解明されれば、その他の恒星の仕組みも分かることにつながり、宇宙全体の成り立ちについての理解も深まると考えている。

2006年、パサコフ教授の研究チームが撮影したコロナの輝線

2006年、パサコフ教授の研究チームが撮影したコロナの輝線

Image from Williams College (Williamstown, Massachusetts, USA) Eclipse Expedition.

コロナ観測の変遷

「ようこう」が撮影したの軟X線連続画像

「ようこう」が撮影した軟X線連続画像

Courtesy of JAXA.

コロナの観測は、1980年代頃までは皆既日食時やコロナグラフという特殊な設備を取り付けた望遠鏡による観測が中心に行われてきた。人工衛星からの太陽観測が本格化したのは、90年代に入ってからだ。地上からの観測とは違い、衛星からであればX線による観測も可能となる。通常X線は100万度以上の物体から発せられるため、コロナを観測すればX線の様子を確認することができるはずだ。しかし、観測地点との間に大気があると、大気がX線を吸収してしまうため、地上からでは観測することができなかったのだ。X線を使用した観測では、太陽の周縁だけでなく、太陽内部のコロナの様子も観測することができるため、コロナ研究を大きく前進させることになった。
衛星からの太陽観測については、1991年に打ち上げた日本の太陽観測衛星「ようこう」や2006年打ち上げの「ひので」など、日本の衛星も科学の進歩に大きく貢献している。「ようこう」はX線望遠鏡を使用した観測によって、それまで考えられていたよりも小さな規模の爆発がコロナ内部で多数起きていることを解明した。これは、「ナノフレア説」への理解を深める結果となったが、観測からはナノフレアのエネルギーを足し合わせてもコロナの加熱に必要な熱量を賄いきれないという事実もわかっている。また、「ひので」についても、打ち上げられた1年後にはコロナ加熱の原因の1つとして考えられるアルベン波をはじめて確認した。アルベン波は、磁力線に沿って表れるエネルギーの波のことで、「波動加熱説」の有力な説の1つとなっている。

現在も、衛星による観測によって、太陽に関する貴重なデータが送られてきているが、パサコフ教授は最新鋭の機材を使用して観測することができる地上からの観測にも注目している。地上からの観測は、長年の実績があり、これまでの観測で培われてきた経験を活かせれば、宇宙からの観測では得ることができないデータを手に入れることも可能なのだという。
コロナの謎はいまだ解明されておらず、太陽内部からのエネルギーの伝達や高温維持の仕組みなどわからないことが多いのが事実だ。現在、多くの天文学者たちがその謎を解明しようと、最新の機材やテクノロジーを利用して、太陽の調査に当たっている。2009年の皆既日食は、今世紀最長の皆既時間になると言われているため、例年よりも多くのデータが集まることが期待される。太陽の仕組みを理解する上での貴重な発見も見つかるかもしれない。皆既日食の影で、太陽の秘密に迫ろうとする研究者の活躍にもぜひ注目してもらいたい。

もう1つの太陽の謎 ニュートリノ

コロナと並ぶ、太陽のもう1つの謎とされてきたのが太陽ニュートリノだ。ニュートリノは太陽の核融合反応の際に生じる素粒子で、何でもすり抜けてしまう性質がある。その性質のため、長い間研究が進んでこなかった。ニュートリノは、小柴教授がノーベル賞を受賞したことで広く知られるようになったが、その研究の歴史は長く、1930年代から理論的にはすでにその存在が示されていた。ニュートリノは、その発生の仕方によって3つに分けられており、太陽の核融合反応によって生み出されるニュートリノは太陽ニュートリノと言われている。
太陽ニュートリノが大きな謎とされてきた理由は、太陽から地球にやってくるニュートリノの量が理論値の3分の1程度であったためだ。この問題は、その後約30年近くにわたって、天体物理学上の謎とされてきたが、太陽ニュートリノが地球に届くまでに別の種類のニュートリノへと変化しているという証拠がついに得られ、ようやくその謎が解明された。