フロンガスがオゾン層を破壊することはよく知られているが、いまやオゾン層の最大の脅威は笑気ガスとも呼ばれる亜酸化窒素という化学物質であることが明らかになった。
地球の上層大気に存在するオゾン層は、太陽の有害な紫外線から動植物を守る役目を果たしている。
1987年、世界中の国々が集まり、クロロフルオロカーボン(CFC)をはじめとしたフロン類を全廃することを決めた。当時、冷蔵庫やエアコンなどの冷媒として広く利用されており、製品の廃棄時に大気中に拡散すると上昇したガスが成層圏のオゾン層を破壊する。そのため、オゾン層は最もひどいときには世界全体で約5%も薄くなっていた。
全廃決定以降はフロン類の排出は劇的に減少し、世界気象機関(WMO)によると、オゾン層は今世紀半ばまでにおおむね回復する見込みである。
フロン類の排出抑制にはめどが付いたが、新たなオゾン層の破壊要因として浮上してきたのが、年間約1000万トンも排出される亜酸化窒素(N2O、一酸化二窒素)である。亜酸化窒素の主要な排出源は硝酸などの化学肥料や家畜の排泄物なので、世界的な農業の拡大や家畜保有数の急増により排出量は今後増加する可能性がある。
研究チームのリーダーで、アメリカのコロラド州ボルダーにある米国海洋大気庁(NOAA)に所属するA・R・ラビシャンカラ氏は、「このままでは、オゾン層の回復が想定より遅れてしまうかもしれない」と話す。
ラビシャンカラ氏の研究チームは、亜酸化窒素がオゾン層に及ぼす影響を大気環境のコンピューターシミュレーションを用いて計算した。その結果、亜酸化窒素は、規制対象の多くのフロン類と同程度の強大な破壊効果があることが判明した。
排出済みの亜酸化窒素の影響は、後々まで残るとも考えられている。「大気中のガスが完全に消え去るまでにはおよそ100年かかる。多くのフロン類に匹敵する残留期間だ」とラビシャンカラ氏は話す。
排出量は減少したが、大気中に残存するクロロフルオロカーボンもオゾン層にダメージを与え続けている。世界保健機関(WHO)の予測では、21世紀の間は、オゾン層の減少が原因の紫外線暴露によって、皮膚ガンの患者が相当数に上ると推定されている。
亜酸化窒素は温室効果ガスでもあり、熱を蓄積して地球温暖化を促進する。研究の共著者であるジョン・ダニエルズ氏は、「亜酸化窒素の排出削減は、地球温暖化だけでなくオゾン層破壊の対策にもなるので一石二鳥だ」と話す。
人為的な亜酸化窒素増加の大半は、現代農法に起因している。オランダのビルトホーフェンにあるオランダ環境評価庁(PBL)のデトレフ・ファン・ファーレン氏は、「主要な排出源は農業だが、下水や自動車の排ガスなど運輸部門も無視する訳にはいかない」と話す。
それでも、人口と所得が増加すれば化学肥料の使用量が増え、肉食も普及して家畜も殖える。世界的な傾向を考えれば、亜酸化窒素の排出は増加の一途だ。
ファン・ファーレン氏は次のように述べる。「人口の増加は、農耕地と収穫量に対する大きな拡大圧力にもなる。食生活を変えることで、農業に大きく変化させることもできるだろう。肉の消費量を減らせば家畜も増やさずに済むし、飼料生産に必要な化学肥料も減る」。
研究チームは、食料生産方法の転換が亜酸化窒素の排出量減少にどうつながるかというシミュレーションも行っている。例えば農地での耕作を減らし、土壌内の窒素が空気中に流出するのを防ぐ農業方法などが有効だという。
ほかにも、バイオ炭と呼ばれる特殊な炭を散布し、土壌を豊かにして化学肥料の必要性を減らすというアプローチもある。「このような方法を導入すれば、全体的な亜酸化窒素排出量を30~40%削減することができるだろう。ただし、排出量を完全にゼロにする方法は簡単には見つからない」」とファン・ファーレン氏は話している。
今回の研究結果は、8月28日発行の「Science」誌に掲載されている。
Photograph by Unlisted Images/Photolibrary

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