for National Geographic magazine
太平洋のミクロネシア連邦を構成する小さな島々の群れの真ん中、幅65キロほどのチューク環礁(トラック環礁)の穏やかな水面の下に、第2次世界大戦中に沈んだ船がいまも50隻以上海底に眠っている。
大戦から半世紀あまりが過ぎた現在、かつては給油船や駆逐艦だった沈没船はサンゴで覆われ、海洋生物に巨大なすみかを提供し、スキューバーダイビングの人気スポットになっている。しかし、その積み荷には有害な物質が含まれている。多くは石油などの燃料を大量に抱えており、化学物質を積んでいる場合や不発弾が残っていることもある。
チューク環礁のいわゆる「幽霊艦隊(Ghost Fleet)」には数十隻の日
過去数十年の間、科学者や政府当局は、こういった沈没船はそのまま放置しておくのが一番の策だと考えてきた。除去作業には多大な労力と費用がかかり、除去作業自体が問題を引き起こす可能性すらある。作業が適切に行われなければ、石油や汚染物質が海水に流出する危険性があるからだ。また、沈没船の大半は命を落とした軍人の海中墓地という役割も担っており、誰も犯すことのできない聖域となっている。
しかし、今日では暖水で加速する腐食に対する懸念が高まっており、年月を重ねるチューク環礁の幽霊艦隊の調査が急速に進められている。ほかにも、太平洋の各地で静かに眠る第2次世界大戦中に沈んだ約3700隻の船が4カ国以上で調査されている。
特に、パプアニューギニアやパラオ共和国などチューク環礁西方のミクロネシア諸島周辺の海域には多数の沈没船が沈んでいる。また、ソロモン諸島付近の海峡では1942~1943年のガダルカナル島をめぐる激戦で連合軍と日本軍の艦船が大量に沈没した。その数があまりにも多かったことから、この海峡は「鉄底海峡(Iron Bottom Sound)」と呼ばれている。
環境保護団体の中には、こういった沈没船は無配慮な投錨(とうびょう)やダイナマイト漁、嵐により船体が破壊される可能性が高く、海洋生物や浜辺、海岸線を守るマングローブ、地元経済にまで被害が及ぶ危険性があるとの懸念を表明しているものもある。
また、沈没船は鉄や鉄鋼で建造されており、既に60年以上水に浸されているため、腐食の限界点に到達している可能性があるともいわれている。どの船体も崩壊し汚染物質を流出させる危険性があるのだ。
アメリカの環境保護専門家マイケル・バレット氏は2003年にこの問題の調査を始めた。当時、誰も沈没船の正確な地図を作成しておらず、沈没船に搭載された燃料の量やそれによって脅かされる生態系に関する包括的な研究も行われていなかった。その後、バレット氏はチューク環礁に沈む50隻以上の沈没船のうち、31隻分のデータを収集した。
2006年の調査時、環礁の海面に油膜が浮かんでいるのを発見した。バレット氏はこの汚染が日本の巨大給油船「宝洋丸」から発生していることを突き止めた。宝洋丸は1944年にアメリカ軍の砲撃によって沈没し、現在は逆さまの状態で海底に眠っている。
今年の夏、国際環境保護団体アースウォッチ(Earthwatch)の調査により、750万リットル以上の燃料を積んだ宝洋丸が、この生物多様性にあふれた環礁に現在でも石油を流出させていることが判明した。チューク環礁にはさまざまなウミガメや200種以上の魚類が生息し、希少なサンゴも存在している。また、アースウォッチは日本の特設潜水母艦「りおでじゃねろ丸」から小さな油膜が発生していることも明らかにした。
米国海洋大気庁(NOAA)修復対策部(OR&R)のダグラス・ヘルトン氏は、「沈没船がもたらす危険性は、船体の位置、搭載している燃料の種類と量、海域の環境によって変わる」と話す。例えば、沈没船が脆弱な礁湖にある場合は、海面下1.5キロに沈んだ船よりも危険性は大きい。
また、給油船は燃料の積載量が多いため特に注意が必要だという。沈んだ給油船の正確な隻数は分かっていないが、オーストラリアにある海事コンサルティング会社SEAオース
さて、いざ沈没船を除去しようとしても、さまざまな問題が立ちはだかる。全般的にいって、南太平洋の小さな諸島諸国は、大規模な除去作業を実施するような資金と技術力を持っていない。
一方、日本やアメリカ、イギリスなどは、沈没船をはじめとした第2世界大戦時の海中遺物の管理権を繰り返し主張しており、沈没船は海中墓地だとして、許可なしに引き揚げを行うことを認めていない。
また、各国内でさまざまな省庁の間に権限が分断されているという点も問題解決を困難にしている。アメリカの場合、NOAAはアメリカ軍の沈没船の影響について関心を持っているが、アメリカ領海以外の沈没船に関しては米国海軍がその権限を保有している。
一部の環境保護団体は、問題を回避する最善の方法は沈没船の実態を把握するアセスメントを行うことだと考えている。予防は治療に勝るものであり、アセスメントにも費用がかかるが除去作業の費用を考えれば安く済むというのだ。実際2003年に、第2次世界大戦で沈没した米海軍給油艦「ミシシネワ」から石油が流出した際、その除去作業には550万ドルかかっている。
一方、海洋生物学者シルビア・アール氏は、沈没船には注意深く対処する必要があると訴えている。「海中に潜り問題を解決しようとする試みは、概してそれ自体がさらに問題を生み出す」とアール氏は話す。前出のバレット氏などの環境保護専門家は、危険性が大きい場合には最新の排油技術を用いる方が待っているよりも安全だと主張している。「沈没船が海に沈んだまま腐食や波によるダメージを受ける期間が長くなればなるほど、有害物質が流出する危険性は増す」とバレット氏は話す。
Photograph by David Doubilet/NGS









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