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天高くそびえるヒマラヤ山脈の洞窟で、古代チベットの美術品や古文書の宝の山が発見された。発掘チームによると、この洞窟は物語上の伝説の理想郷“シャングリラ”と関係があるかもしれないという。
ヒマラヤ山脈にかつてムスタンという王国があった。現在はネパールの一部として統合されているが、その領域内の切り立ったがけの中腹に人工の洞窟が存在する。15世紀の宗教文書や壁画が大量に保存されていたのはその中だ。
これまでこの神秘的な洞窟を探検した者はほとんどいなかった。洞窟のあるムスタン北部の高緯度地方(アッパームスタン)は、長い間、外部の人間の立ち入りが禁止されていたからだ。
2007年、アメリカ人の研究者でヒマラヤを熟知するブロートン・コバーン氏と、ヒマラヤ登頂経験が豊富な登山家ピート・アサンズ氏が発掘チームを編成、謎の人工洞窟を探検するべく崩れかかったがけに挑んだ。洞窟内部に進んだチームは、チベット仏教の古代寺院を発見した。非常に美しい彩色の壁画で装飾されており、そのうちの55枚にはブッダの生涯が描かれていた。
2008年に行われた2回目の探検では、600年前の人骨がいくつか発見された。貴重な古文書も大量に見つかり、「イルミネーション」と呼ばれる小さな絵画が添えられた装飾写本もあった。
発見された聖なる宝の数々は、仏教徒の“隠れ谷(hidden valleys)”で見つかるような伝説の宝を思わせるものだった。隠れ谷は、イギリス人作家ジェームズ・ヒルトンが1933年に著した人気小説『失われた地平線』の中で描いた理想郷、“シャングリラ”のモデルとなった地である。
しかし、洞窟は何世紀にもわたり盗掘集団に襲われていたため、古文書からは金銭的価値の高い装飾図版が切り取られていた。チベット仏教徒の巡礼者が記念品を持ちかえろうとするため、洞窟の壁もかなり傷ついていた。それでも、発掘チームは30巻分の古文書を収集し記録に残すことができた。現在はムスタンの中央僧院に保管されている。
コバーン氏は次のように話す。「古文書は山岳地帯の冷涼で低湿度の気候に守られていたため、判読できる状態を保っていた。興味深いことに、仏教に関する資料だけでなく、仏教以前のチベット土着の信仰であるボン教のものも含まれていた。混在している状況から判断すると、チベットで仏教の国教化が進む8世紀以降も、この地では少なくとも1~2世紀の間はボン教が存続していたと考えられる」。
発掘チームはムスタン王がボン教の聖なる文書を洞窟に処分したと推定しているが、原形を保っていたことからボン教に対する敬意もうかがえるという。
イギリス、ケンブリッジ大学でヒマラヤの史料の保管を行うために発足したデジタル・ヒマラヤ・プロジェクト(Digital Himalaya Project)の一員であるマーク・トゥリン氏は、今回の報告を受けて次のように話す。「たしかに、処分されたという可能性もあるが、チベットには宗教文書を意図的に隠すという伝統もある」。今回の発掘調査は、ナショナル ジオグラフィック協会からの支援を受けている。
トゥリン氏によると、今回の発見はチベット文化にとって大きな意味を持つという。「ムスタンは“この世の果て”と称され、中国が占領するチベットからも文化的に孤立している。しかし、今回の発掘により、ムスタンが何世紀もの間、重要な意味を持っていたことがわかった。力強く、活力に満ちたこの一帯は、成熟した文化を育み、宗教的にも多様な地域だったのだ」。
通常とは異なる宝物の発見を踏まえてコバーン氏の発掘チームは、「ムスタン洞窟は、仏教徒の理想郷シャンバラの象徴とされている“隠れ谷”と関連性を持つ可能性がある」と推測している。「以前からヒマラヤ山脈の谷の一部には、シャンバラ伝説につながる地理的な類似が存在すると考えられてきた」とコバーン氏は話す。「争いが生じたときや、仏教の実践や主導者が危機に陥ったときにこういった隠れ谷が造られる。そして、“埋蔵経典(テルマ)”と呼ばれるさまざまな重要文書が谷に収められる」。
『In Search of Shambhala(シャンバラを探して)』の著者エレイン・ブルック氏は次のように話す。「ムスタンの隠れ谷が伝説の国シャンバラの特徴をある程度備えているのは事実だ。ただし、チベット人の宗教指導者ダライ・ラマも言っているように、シャンバラがどこにあるのか、いまでは誰にもわからない」。
発掘チームのコバーン氏やアサンズ氏は、「シャングリラであろうとなかろうと、ムスタン洞窟は緊急に保護処置を講じる必要がある」と話す。「洞窟は当初から相当の年月が経過しており、盗掘や記念品持ち帰り以外にも、侵食、地震、たまに降る集中豪雨などさまざまな脅威に直面している」。
Photograph courtesy Kris Erickson

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