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世界で最も“丈夫”な熱帯雨林と思われていたアマゾンのジャングルが、実は塩分不足による“慢性的な栄養失調”を抱えているとする研究が発表された。ただし、これは必ずしも悪いことではない。塩分の不足した森林では炭素の蓄積が促進され、地球温暖化が抑制される可能性があるからだ。
熱帯雨林の奥地では、塩分などのミネラルの供給源は主に哺乳類の尿だけである。そのため、枯れた植物を貪って分解する“分解者”と呼ばれる生物は、生命の維持に必要なミネラルを十分に摂取できていない。
塩分不足によって分解者の数が抑制され、その一方で塩分を必要としない植物は数が増え、その結果、植物が枯れると炭素が林床に蓄積されるのである。研究の責任者であるオクラホマ大学の動物学者マイケル・カスパリ氏は、「熱帯地方は、植物は住みやすいが、分解者にとっては住みにくい」と言う。
同氏の研究チームがペルーの熱帯雨林で食塩水を撒いたところ、シロアリやバクテリアなどの草食性の生物がにわかに活気づき、落ち葉などの有機堆積物がまたたく間に貪り食われていった。「微量のナトリウムを生態系に投入するだけで、それまで蓄積されていた有機堆積物の分解プロセスがこれほど速まるとは、大変驚いた」。
このようにしてミネラルなどの無機物を再循環することによって、森林がより実り豊かなものになるとともに、環境の中で炭素がスムーズに循環するようになる。これは生命にとって最も重要な循環のひとつだが、地球温暖化の大きな原因となる温室効果ガスである二酸化炭素が、植物の分解の際に排出されてしまう。
将来の温室効果ガスの排出量をより正確に予測するために、まだ知られていない炭素の貯蔵源を見つけようと世界各地で研究が進められている。「そのような未知の炭素が熱帯雨林にも眠っているのではないか」とカスパリ氏は推測する。
ほとんどの動物が生きるために塩分を必要としているが、特に海から離れた内陸部に生息する動物や昆虫は塩分が不足状態にあることが過去の研究で明らかになっている。哺乳類の尿のほかにも、まれにではあるがハリケーンのために海水が海岸から何千キロも吹き飛ばされ、内陸部に塩分が運ばれることがある。
カスパリ氏の研究チームは、海から約2000キロ離れたペルーのイキトス近くの原生林に70個の区画を作って一定量の水を撒き、それから1日おきに、35個の区画には塩分と川の水を、残りの35個の区画には川の水だけを加えるという実験を行った。
このとき加えられた塩分の量は、1匹の猿の尿1回分に含まれるナトリウムの量にほぼ相当するものである。猿の尿は、アマゾンにおける一般的な塩分の供給源と考えられている。「熱帯雨林で長く仕事をしていると、よく猿にひっかけられるんだよ」とカスパリ氏は言う。
18日後、「見たこともないような恐ろしい姿のシロアリが、塩を撒いた区画で群れを作り始め、数が7倍に増えた。シロアリにとって一番の天敵であるアリの数も倍増した」。全体で見ると、塩を撒いた区画では堆積した落ち葉が以前より41パーセント早いペースで消失したという。
塩分によって分解が早まるだけでなく、食物連鎖を上回るペースで生物が増加する可能性があるということが今回の研究で明らかになった。
今回の研究に参加していないワイオミング大学の生理生態学者カルロス・マルチネス・デル・リオ氏は次のように話している。「この研究の新しいところ、そして実際に素晴らしいところは、これまでほとんど知られていなかった、生態系内での塩分の拡散プロセスが明らかになったことだ。まるで塩が連鎖反応を引き起こしているようだ」。
一部で予測されている通りに地球温暖化が原因でハリケーンが増加すれば、内陸部の生態系で塩分が増加し、気候変動に拍車がかかる可能性があるとカスパリ氏は懸念する。「アマゾンの有機堆積物の分解に必要な量のナトリウムが一気にもたらされて分解が始まると、温室効果ガスである二酸化炭素が大気中ですさまじい勢いで増加するだろう。その意味で、アマゾンの森林生物にとって損なことが人間にとっては得になる」。
この研究は2009年11月2日発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に掲載されている。また、研究費の一部はナショナルジオグラフィック協会の研究・探査委員会から助成を受けている。
Photograph courtesy S.P. Yanoviak

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