いよいよ米東部時間11日午後9時20分(日本時間12日午前10時20分)、NASAのスペースシャトル「ディスカバリー」が打ち上げられる。今回は、日本人で初めて国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する若田光一宇宙飛行士(45歳)が搭乗する。
ミッションスペシャリスト(搭乗運用技術者:MS)と呼ばれる技術部門の経験を重ねてきた若田氏は、今回のミッションでは自ら実験台になることを志願した。さまざまな薬を服用し、各種センサーを体に取り付け、下着がどれほどにおうか記録する。もちろん、すべては科学の名の下に行われるのだが。
若田氏が3カ月の滞在中に行う実験は、宇宙生活で生じる医療面や実用面の問題を解決する手掛かりを与えてくれるだろう。
まず、宇宙生活では衣類が問題となる。宇宙空間には洗濯機がないのだ。宇宙飛行士は必要な衣類をすべて運び込み、1着をできる限り長く使用する。そして、完全密封された容器に詰めて地球に持ち帰る。3カ月の滞在には45組の下着が必要となる。つまり着替えるのは1日おきだ。また、同じTシャツを1週間着用しなければならない。
若田氏は、NASA支給の衣類に加えて日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)や日本女子大学、民間企業5社が共同開発した衣類を7日分持っていく。機能性や帯電防止など最先端技術を駆使した衣類だが、最も重要な点は、おそらく抗菌性の素材を使っていることだろう。JAXA宇宙医学生物学研究室の小川芽久美氏は、「今回の下着は、細菌を一切繁殖させることなく3日間着用できるようになっている」と話す。
宇宙生活では骨の強さも大きな問題となる。「宇宙飛行士の骨密度は、地上の成人女性に比べて10倍の速度で減少する」とJAXA宇宙医学生物学研究室の大島博氏は話す。無重力状態に置かれると、骨にカルシウムを蓄積する機能が阻害されるためだ。そして、人体のカルシウム排出量が吸収量を1日におよそ250ミリグラム上回るようになる。カルシウムが吸収されずに排泄器官に向かうと腎臓結石の危険性も高まる。
骨量の減少に対処するため、若田氏は週に1度、ビスホスホネートの錠剤を服用する。ビスホスホネートは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療薬として知られ、骨密度を改善し骨折を防ぐ効果がある。若田氏の骨密度はミッションの前後で厳密に測定される。
宇宙空間では宇宙放射線も大きな問題となる。JAXA宇宙環境利用センターの永松愛子氏は、「宇宙で過ごすというのは、毎日レントゲン検査を受けるようなもの。さらに、宇宙線は地上の放射線とは異なり、重イオンを含んでいる。重イオンは非常に深刻なDNAの損傷や変異を引き起こすことがある」と話す。したがって、長期間宇宙線にさらされると、ガンや白内障を患う可能性が高まる。
若田氏は、ISS居住者の危険性測定に貢献するため、線量計と呼ばれる小さな携帯測定装置を身に付けて行動する。また、同様の測定装置が、ISS内の日本保有の実験棟「きぼう」に12個設置される。今回のミッションでは、若田氏をはじめとした宇宙飛行士は「きぼう」に居住する予定だ。
また、ISS滞在中、若田氏は心電図計(EKG)を身に付けて心臓血管機能のモニタリングを行う実験にも取り組む。1回あたり24時間の計測を2回行う予定だ。
地上の医療担当チームは、特に若田氏が船外活動を行っている間の心臓の働きに注目する。船内と比べて非常に大きな負担が心臓にかかっていると考えられる。また、心電図で体内時計もモニタリングされる。日の出と日没のタイミングを失う体内時計はどのような変化を見せるだろうか。
心電図の電極を取り外した後は、若田氏の皮膚に異常がないか、高解像度カメラでチェックが行われる。将来的には、このようなシステムにより、地上からの遠隔医療が実現することが期待されている。
若田氏の今回の“任務”は重苦しいものばかりではない。3月5日、JAXAは一般から公募した「おもしろ宇宙実験」の選定結果を発表した。若田氏は16件のアイデアを実行する。「おもしろ宇宙実験」には1500件を超える応募があり、「魔法のじゅうたん」「目薬」「衣類をたたむ」「腕相撲」など型にとらわれない“任務”が選ばれている。
Photograph by Tony McNicol

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