アメリカ国産牛のゲノム(遺伝情報)が完全に解読された。6年の歳月をかけてようやく解読作業が完了したと最新の研究が報告している。この画期的な研究成果を受けて、従来よりも安全な牛肉や牛乳が安く手に入るようになる可能性もある。
ゲノムとは特定の種を生じさせる遺伝子の集合全体のことを指す。遺伝子はさまざまな形で組み合わされることによって、髪の毛の色や体型など、動植物の物理的な特徴を決定する化学的な“文字情報”のようなものである。
このたび新たに解読された牛のゲノムを利用すると、いったいどのようなことが可能になるのか。生物学者のハリス・ルーウィン氏は、「動物の遺伝子構造がわかれば、そこから動物の能力を予測できるようになる」と言う。
特定の形質を出現させる遺伝子の判別が可能になることで、望ましい形質を備えた子牛が誕生するような組み合わせで繁殖を行えるようになる。
つまり、繁殖させる牛をゲノムの段階で選択することが実現すれば、少ないエサで体の引き締まった牛だけを育てられる可能性も出てくる。エサが少量で済むとなれば畜産家のコストも削減されるため、消費者の手元に届く商品の価格も低く抑えられるかもしれない。
前出のルーウィン氏は次のように話している。「発展途上国の生活水準が向上するにつれて牛肉の消費量は増えると見込まれているので、供給側の進歩は重要な意味を持つだろう。それに、牛肉と乳製品を主要な食品とする国もある。そのような地域でも牛は文化の一部として切り離せない存在なので、この研究は世界的に大きな意味を持つ」。
同氏は遺伝子解読作業を行った2つの研究チームのリーダーで、研究結果の解説を執筆している。この研究結果は24日発行の「Science」誌に掲載される。
また、同氏は次のように推測する。「ゲノム情報を基にした繁殖が実現すれば、環境にも良い影響がある。例えば、牛のゲップは地球温暖化を促進しているといわれるが、エサを効率的に摂取できる牛が育てば温室効果を削減できるだろう。同時に、われわれ人間が得られる食べ物の量も増えることになる」。
さらに、病気に強いゲノムを持つ牛が増えるように選択的に繁殖することも可能になる。狂牛病などの病気にかかりにくい、健康な牛を増やせるかもしれない。「ゲノムを参考に何世代か繁殖を繰り返せば、従来よりも効率的に病気を防いだり、病気に強い遺伝子を組み込んだりできるはずだ」と、同氏は語った。
牛のゲノムは牛の成り立ちを解明する手掛かりにもなる。4つの胃や、タンパク質の豊富な牛乳など、牛を特徴付ける形質を発現させている遺伝子の特定が進むとみられる。
既に科学者らは解読済みのゲノムを利用して数種の牛の遺伝子を比較し、牛の進化の全体像を描き出している。その結果、牛はオーロックスというヨーロッパに生息していた絶滅種から約1万年前に家畜化され、これまでの間にさまざまな種が生まれていたことが明らかになった。
そのような多様性は、最近の農畜産業で行われている選択的な繁殖によって急速に失われつつある。特定の種が大量生産される一方で、そのほかの種の個体数が減少する。この傾向は、解読されたゲノムを基にいっそう的確な繁殖が実現するにつれ、ますます激化していくだろう。
この点について同研究では、遺伝的な多様性の少ない種は病気に弱くなる傾向があり、近親交配の可能性も高まるため、繁殖家たちにとって悩みの種になる可能性もあると指摘している。
とはいえ、共同研究者で、メリーランド州ボルチモアのアメリカ農務省所属の遺伝学者であるカート・バン・タッセル氏は次のように述べている。「研究の結果、牛はまだ人間と同じ程度の多様性を保っていることがわかったので、いまのところまったく問題はないだろう。さらに多様性が乏しくなっても、今回の研究を基に技術が進展すれば、まったく新しいレベルで種の多様性を管理できるようになる。見通しは非常に明るい」。
Photograph by David Cheskin/PA via AP

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