月面で地下洞窟につながる“縦穴”が発見された。人類が月面で活動する際には、居心地のよい地下シェルターとして利用できるかもしれないという。日本の月周回衛星「かぐや(SELENE)」がとらえた画像に奇妙な暗い縦穴が写っていた。分析の結果、この縦穴は地下に広がる巨大な溶岩洞への入り口である可能性が出てきた。
研究チームのリーダーで日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究本部(ISAS)に所属する春山純一氏は次のように話す。「数々の研究者が溶岩洞の入り口を探し続けてきた。月に洞窟があれば、天然のシェルターとして利用できるからだ。月面は、隕石の衝突や宇宙からの放射線、昼夜の急激な温度変化など非常に過酷な環境にあるが、溶岩洞があれば保護施設を建設する必要がなくなる」。
地球でも、火山噴火の後に溶岩洞が形成されることがある。地下に溶岩の“川”が流れると、岩石層内部を通る溶岩の流路が空洞となって残るためだ。“縦穴”ができるのは、溶岩洞の屋根の一部が侵食を受けるなどして陥没する場合だ。
月の火山活動はおよそ30億年前に終息したと考えられているが、かぐやの最新データでは約250万年前にも活動していた可能性が示されている。また、月で火山噴火があったことは間違いなく、地下の溶岩洞の存在がかなり以前から予想されてきた。しかし、何十年にもわたってさまざまな月周回衛星から大量の画像が集められたが、縦穴は見つからなかった。
かぐやは2007年12月から2009年6月にかけて、月全球の地形を高解像度画像に収めるミッションに従事していた。そしてついに、2008年5月に撮影された画像から、「マリウス丘」と呼ばれる火山活動が非常に活発だった地域に縦穴があることを突き止めたのである。
JAXAの研究チームは、縦穴に通じる暗い部分を何回かに分けて撮影し、1日の間に内部の影がどのように変化しているかを分析した。縦穴の深さを計算するためである。その結果、今回発見された縦穴は深さ88メートル、直径65メートルほどであることがわかった。隕石衝突によるクレーターの場合、そのような深さに達することはまずないという。
また、非常に興味深いことに、この縦穴はリル(裂溝)と呼ばれる蛇行した地上の線状地形の途中にあった。リルは月面のあちこちに曲がりくねって進むように形成されている。リルは、古代に地下で溶岩が流れた跡を示すものと考えられており、現在は空洞になっている可能性が高い。研究チームによると、この縦穴に続く地下洞窟は最低でも幅370メートルはあるはずだという。
月面建築技術のコンサルティング会社「アンドリュー・ダーガ・アンド・アソシエイツ(Andrew Daga & Associates)」の代表で、溶岩洞を月面基地に利用する可能性を調査してきたアンドリュー・ダーガ氏は、今回の研究を受けて次のように話す。
「月面に独立したシェルターを建造するのは技術的にもコスト的にも困難が大きい。しかも、現在の最新技術を駆使しても溶岩洞内部と同等の保護レベルは望めない。長期的に見ても溶岩洞の方が安全だ。大昔から時の試練に耐えているからだ」。
春山氏の研究チームは、縦穴が見つかった溶岩洞の成立年代について、付近のクレーターの数に基づき35億年以上前と推定している。したがって、溶岩洞内部は現時点でも状態が良いと考えられ、近い将来に崩壊する危険性はかなり低いとみられる。
次のステップとしては、ロボット探査機を送り込み、地中探知レーダーによって各種の測定を行うことが必要となる。この洞窟をシェルターとして利用する場合は、玄武岩質の“屋根”の厚さが重要だ。
「月面で人類が居を構えるならどこがよいか」を議論する場合、例えば“水資源の可能性”という要因も欠かせないが、今後、地下シェルターというアイデアが現実味を帯びてくると“溶岩洞の位置”も重要になってくるだろう。
マリウス丘地域はアポロ時代にも着陸地点の候補としての実績があり、現在も、2020年までに人類を再び月に送り込むことを目標とするNASAのコンステレーション計画において検討作業が続いている。
「マリウス丘のような火山地帯は、月面で資源を探すのにも適した場所だと考えられる」と春山氏は話す。月で火山噴火が起こると玄武岩質の岩石が生み出されるからだ。この岩石からは、希土類金属やケイ素、酸素といった資源を手に入れることができる。「かぐやが見つけた地下洞窟は、月面基地として十分利用できると思う」。
今回の分析結果は、「Geophysical Research Letters」誌に掲載されている。
Photograph courtesy ISAS, JAXA, Junichi Haruyama et al.

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