チンパンジーの知能については長年綿密なテストが行われてきたが、ゴリラの知能がテストされることはあまりなかった。大型類人猿のゴリラはめったに道具を使用しないため、それほど明敏ではないというのが科学者たちの考えだったからだ。しかし、アメリカ、シカゴのリンカーンパーク動物園で進められている研究は、そのような見解とは異なる結果を示している。
同動物園の科学者たちは4年前、“ローリー”というメスゴリラの囲いの脇に、タッチスクリーン式のコンピューターを設置した。ローリーが端末に近づくと画面に数字の1が表示され、その数字に触れるとチャイムが鳴り、凍ったブルーベリーが出てくるという仕掛けだった。ローリーはすぐに、数字を押せばご褒美が得られることに気付いた。しばらくするとコンピューター画面には数字の1と2が表示されるようになったが、ローリーは試行錯誤の末、2つの数字を正しい順番で押せばブルーベリーが手に入ることも学んだ。
リンカーンパーク動物園で霊長類を研究するスティーブ・ロス氏は2008年、ローリーは最大7つの数字を並べられると報告した。同じ動物園で飼育されているチンパンジーたちは、数字の順番を覚えるのに倍の時間がかかったという。
「ゴリラはめったに道具を使用しない。そのため、認知的な研究が行われることはほとんどなかった。これほど優秀な結果が出るとは思いもしなかった」と同氏は言う。ただし同氏の研究チームには、ローリーがたまたま賢いだけなのか、それともほかのゴリラも同程度の知能を持つのかがわからなかった。
そこでチームは、リンカーンパーク動物園に住むほかのゴリラたちのテストも開始した。中でも、最も若い5歳のオス、“アジジ”の覚えの早さは際立っていた。アジジはまだ1度に5つの数字を並べることしかできないが、学習の早さはローリーに匹敵する。
日本でもチンパンジーとマンドリル、テナガザルを対象に同様の研究が行われているが、5つ目の数字は壁となっている。「このようなゴリラの知能の高さを示す研究は例がなかった。今後の進展が楽しみだ」と、京都大学霊長類研究所の松沢哲郎所長は話した。
このような結果が出ると、今度はゴリラがなぜあまり道具を使わないのかという疑問が浮上する。前出のリンカーンパーク動物園で霊長類を研究するエリザベス・ロンズドルフ氏は、「ゴリラは社会性が低い。だから道具の使用をはじめとする革新的な行動が、群れの中で広がらないという推測も成り立つ」と言う。もしゴリラがチンパンジーのように集まり、互いに学び合えば、道具の使用はもっと広がっていたかもしれないというのだ。
摂食行動も1つの要因かもしれない。ゴリラは容易に手に入る草やハーブを主食とするため、道具を必要としない。一方、チンパンジーは一般的に果物や木の実を常食とし、これらは道具なしでは採集できないことが多い。「チンパンジーが道具を発明し、ゴリラがしないもう1つの理由は、食物を得る難しさの違いかもしれない」と、京都大学の松沢所長は指摘した。
Photograph by Paul Zahl/NGS

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