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人間のエコーロケーション(反響定位)能力を研究している科学者チームによると、私たちも訓練すればコウモリのように暗闇でも周囲の状況を把握できるという。
エコーロケーションとは、自分が発した音の反響を受信し、その反響音波から周囲の物体との位置関係を察知する方法で、コウモリ、イルカやクジラ、一部のトガリネズミなどには生まれついてその能力が備わっている。
今回、視覚障害者が音を頼りに歩いている様子にヒントを得てスペインの研究チームが研究を進めた結果、ほとんどの人間がエコーロケーションを行うことができるという証拠が確認された。
また、舌の先端を上顎に当ててはじき鳴らす音、いわゆる「舌打ち音」が、人間がエコーロケーションを行う上で最も有効な音であることも判明したという。漫画や小説で「チッッ」などと表現されるあの音だ。
アメリカのカリフォルニア州ハンティントンビーチに、ワールド・アクセス・フォー・ザ・ブラインド(World Access for the Blind)という視覚障害者を支援する団体がある。その事務局長であるダニエル・キッシュ氏は生まれつき目が不自由だが、そのハンデを克服するため、舌打ち音を駆使して周囲の状況を察知する能力を幼少時に身に付けた。
現在、キッシュ氏はマウンテンバイクやハイキング、球技などを従来型の視覚支援措置に頼らずに楽しんでいる。キッシュ氏のこの能力を研究するため、スペインにあるアルカラ大学のフワン・アントニオ・マルチネス氏率いる研究チームは、健常学生10人を対象にエコーロケーションのトレーニングを実施した。
「“人間のエコーロケーション”という発想を真面目に受け取る人が少なかったため、被験者を集めるのが一苦労だった」とマルチネス氏は当初を振り返る。10人の被験者は、目を閉じたまま音を鳴らし続け、物体が近くにあることを認識できたら音を止めるよう指示された。
「Acta Acustica」誌の2009年3月/4月号に掲載された研究論文によると、すべての学生がトレーニングを数日受けただけで、エコーロケーションの基本的スキルを習得したという。実験の過程で、学生たちは3種類の音を出していた。舌を使った「チッ」、唇を使った「チッ」、そして上顎で舌をはじく通常の舌打ち音である。
それぞれの音から生まれる音波の波形を研究チームが調べた結果、通常の舌打ち音が最も高い精度で周囲の様子を伝えていることが判明した。
「エコーロケーションを生まれついて行う動物はこの能力を生存の拠り所としており、一部の器官はこの能力に特化している」と、マルチネス氏は解説する。例えばイルカの鼻は、「カチカチ」というクリック音を1秒当たり200回も出すことができる特殊な構造をしている。人間の舌打ち音は、どんなに頑張っても1秒当たり3~4回が限度だ。
アメリカ、コネチカット大学の生体音響学者ピーター・シェイフェル氏は、第三者の立場で次のようにコメントしている。「人間がエコーロケーション能力を習得するのはかなり難しい。普通に目の見える人にとっては特に厳しいだろう。人間は視覚を頼りにしているため、どうしても聴覚より視覚情報を優先してしまう。それを克服できなければ、エコーロケーションは習得できないのではないか」。
その一方でマルチネス氏は、「健常者でも、毎日1~2時間トレーニングすれば1カ月以内に十分なエコーロケーション能力を身に付けることができる。視覚障害者ならもっと早く習得できるだろう」と話している。
メリットがあるのは視覚障害者だけではない。例えばレスキュー隊は、霧の深い現場でもこの能力を駆使して遭難者を速やかに発見できる。あるいは消防隊なら、煙の充満したビルの中で出口に素早くたどり着けるだろう。
発信音を出すリストバンドなど人工のエコーロケーション装置もあるが、現時点では単純な舌打ち音の方が優れていると研究チームは考えている。「そのような装置では反響音の触知覚を完全には再現できないため、まだまだ天然のエコーロケーション能力にはかなわない」とマルティネス氏は言う。
Photograph by Christian Ziegler

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