“装甲に身を包んだサーベルタイガー”や“パンケーキのような平べったい捕食者”など、奇妙な姿をしたワニの祖先たちの化石がサハラ砂漠の吹きさらしの砂丘の下から発見された。約1億年前の白亜紀、南半球の諸大陸が分かれる前の超大陸ゴンドワナを支配したのは風変りな爬虫類だったようだ。
研究を率いたシカゴ大学の古生物学者ポール・セレノ氏は次のように話す。「アフリカに広がるワニの世界は、これまで全体像が明確に捉えられていなかった。ワニの国の王者“スーパークロコダイル(SuperCroc、学名サルコスクス:Sarcosuchus imperator)”のことは知られていたが、ほかにどんな動物が恐竜の陰で生きていたのかはほとんどわかっていなかった」。
ナショナル ジオグラフィック協会付き探検家でもあるセレノ氏によると、クロコダイル型類(Crocodyliform)と呼ばれる古代ワニの仲間は、北半球にはあまり広がらなかったが、南半球では繁栄し、その鳴き声で奇妙な歌を響かせていたという。
同氏の研究チームは3種類の新種の化石を発見し、それぞれ“パンケーキクロック(PancakeCrock)”、“ボアクロック(BoarCroc)”、“ラットクロック(RatCroc)”と命名した。さらに、過去に存在が確認されていた“ダッククロック(DuckCroc)”と“ドッグクロック(DogCroc)”の骨の化石も新たに発見した。
「ワニは、現在見られるものがすべてではない。かつてのゴンドワナ大陸で今回発見された中には、草食性や走り回るワニ、恐竜を食べるもの、板のように平べったいワニもいた」。
セレノ氏のチームは、ワニ類の祖先が生きていた“ロスト・ワールド”の証拠を求めて2000年から北アフリカの砂漠で過酷な発掘調査を続けてきた。
現存するワニ類には、クロコダイル、アリゲーター、カイマンなどのグループがある。今回の古代ワニ5種はそれぞれ環境に適応して独自の進化を遂げ、現在のニジェールからモロッコにかけて草の茂った平野の川沿いに住むようになったという。
例えば齧歯類(げっしるい)のようなラットクロックは、地面を掘り返して地下茎や小さな生き物を探すための出っ歯を持っていた。
扁平な体のパンケーキクロックは、セレノ氏の言葉を借りれば「究極の待ち伏せ型捕食動物」だった。釘状の歯が列をなす、長さ90センチの薄く細長い顎(あご)を開き、「愚か者が迷い込むのを、微動だにせず待ち続けていた」という。
ダッククロックは、長く滑らかで敏感な鼻を浅瀬の草木の間から突き出し、鉤型の歯でカエルや小魚を捕えていた。
草食のドッグクロックは、ひょろ長い足をしていた。これは、敵に襲われると水の中に逃げ込めるほど俊敏だった可能性が高いことを示す。
5種類のなかで群を抜いて強かったボアクロックは、体長6.1メートルの“装甲を身にまとったサーベルタイガー”のようで、恐竜を主食としていた。
左右に3本ずつある牙は、口を閉じても顎の上下にはみ出すほど長く、肉を容易に切り裂くことができた。また、突き出た鼻は骨のような鎧で固められ、敵に突進して衝突したときの衝撃を高めていた。
「ゴンドワナには真の変わり種がたくさんいた。私もクロコダイル型類の化石を数多く研究してきた者として、これらの生き物には強く心を惹かれる」と語るのは、今回の研究に参加していないワシントンD.C.にある国立自然史博物館の古生物学者ハンス・ディーター・スーズ氏だ。
ワニの動き方を研究してきたセレノ氏が今回の研究でゴンドワナ大陸のワニの骨格を分析したところ、その多くの体は驚くほどの柔軟性を備えており、現在オーストラリアに生息するイリエワニのように疾走できたものもいた可能性があることが明らかになったという。
古代ワニはこのように陸上でも水中でも同様に機敏に動けたため、捕食者から容易に逃げることができ、ひいては絶滅からも逃れえたのだろうとセレノ氏は推測している。
古代ワニの一部は、6500万年前に恐竜を全滅させた大量絶滅の時代を生き延びたに違いない。水陸どちらでも俊敏に動けたため、自然災害が起きても川や沼の中で難を逃れていたかもしれない。だから現在のワニ類も水辺で繁栄しているのだ、というのがセレノ氏の考えである。
しかし、アイオワ大学の古生物学者クリストファー・ブロチュ氏は、古代ワニが本当に疾走していたかどうかはわからないと疑問を呈する。
今回の研究に参加しなかった同氏は、現在のワニ類で疾走できる種類がごく少数しか存在しないことから、疾走する能力はワニ類の中だけで進化した可能性が高いという。「ワニ類の仲間の一部に見られる行動を他の種類にあてはめる際には注意が必要だ」と同氏は警告する。
同氏は一方で、この研究自体は高く評価している。「これらの新種は本当に美しい生物だ。南半球でこれほど多種多様な古代ワニが繁栄している要因を解明する鍵となることは間違いない」。
セレノ氏は、古代ワニがどのような動き方をしていたにせよ、その特徴の一部が進化によって後の世代に受け継がれ、クロコダイル型類全体として絶滅を免れてきたことに一役買ったことは否定できないと主張する。「古代ワニは真の成功者だ。彼らは生き残ったのだ」。
この研究は2009年11月19日発行の「ZooKeys」誌に掲載されている。
Illustration courtesy NGT

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