August 4, 2010
約137億年前、ビッグバンによって巨大な混沌が生まれ、そこから物質、生命、宇宙のすべてが生じた。この現象の理由が、新素材によって解明されるかもしれないという。
この新素材は、電子が持つ未解明の特性を証明するために開発された。電子は負の電荷を持つ素粒子であり、原子核の周囲を巡って原子を構成している。
新たな特性が証明されれば、現在の宇宙で物質が反物質よりもはるかに多いことに説明がつくという。「初期宇宙では、あらゆる物質に対称性があったはずだ」と、今回の研究に携わったドイツのユーリッヒ研究センター固体物理研究所(Forschungszentrum Julich Institute of Solid State Research)のマルヤーナ・レジャイッチ(Marjana Lezaic)氏は話す。
現在の素粒子物理・・・
この新素材は、電子が持つ未解明の特性を証明するために開発された。電子は負の電荷を持つ素粒子であり、原子核の周囲を巡って原子を構成している。
新たな特性が証明されれば、現在の宇宙で物質が反物質よりもはるかに多いことに説明がつくという。「初期宇宙では、あらゆる物質に対称性があったはずだ」と、今回の研究に携わったドイツのユーリッヒ研究センター固体物理研究所(Forschungszentrum Julich Institute of Solid State Research)のマルヤーナ・レジャイッチ(Marjana Lezaic)氏は話す。
現在の素粒子物理学の理論では、ビッグバンで同量の粒子と反粒子が生じたとされている。粒子と反粒子では、質量とスピン(角運動量)は同じだが、電荷と磁性は正負が逆になる。
鏡のように逆の性質を持つ粒子と反粒子が衝突すると、相殺して消滅する。この現象は対消滅と呼び、その後には純粋なエネルギーだけが残る。「つまり、物質と反物質の量がまったく同じであるとしたら、対消滅で全物質が消えてしまうため、この世には私たちも存在しないことになる」とレジャイッチ氏は話す。
しかし、この世界に物質はあふれているが、反物質はほとんど存在しない。両者にはわずかに異なる特性(非対称性)があったため、宇宙に物質が徐々に蓄積されていったことがわかる。
今回提唱された理論によると、電子にも磁石の正極と負極のような電気双極子モーメントという特性があるという。非対称性の特徴は、他の素粒子崩壊ではかなりの大きさで現れるが、電気双極子モーメントとしては極めてわずかな量しか期待できない。もしこの特性が証明されれば、物質と反物質の謎を解明できる。
負電荷を持つ電子の場合、電気双極子の存在は電荷分布の偏りがあることを意味する。「電気双極子モーメントは電子のわずかな空間のゆがみとしてとらえることができる」とレジャイッチ氏は説明する。このようなゆがみが生じると、物質と反物質との対称性が破れ、粒子と反粒子が異なる割合で自発的に別種の素粒子に崩壊転換できるようになる。
そうだとすれば、すべてが対消滅しない程度の反粒子が初期宇宙で崩壊したことになるというのが今回の理論である。
電子の電気双極子モーメントを検出するために、研究チームはユーロピウムチタン酸バリウムというセラミック素材を開発した。加熱・冷却によって作られる非金属物質であるセラミックスは、原材料を変えることで多種多様な特性を持たせることができる。
6月18日付の「Nature Materials」誌オンライン版に掲載された今回の論文によると、ユーロピウムチタン酸バリウムは、磁気特性と電気特性の組み合わせが他のセラミックスとはまったく異なるという。
セラミックスの結晶内では正と負の電荷(双極)が分離している。しかし、結晶全体では電気的に中性だ。それぞれの双極は通常不規則な方向だが、強い電場が横切ると、電気双極子モーメントが存在するのであれば電場の向きと一致するはずだという。「これには、方向磁石を磁場に置くと向きが変わり、磁石の磁気モーメントと磁場の方向が同じになるのと同じ原理が働く」とレジャイッチ氏は説明する。
さらに、電子には軌道運動(スピン)から磁気モーメントが生まれる特性がある。磁気モーメントは観測可能な磁場を作り出す。粒子の対称性から、電気モーメントと磁気モーメントは一致する傾向がある。
つまり、電場を与えると、電子の電気双極子モーメントは磁気モーメントと共に反転する。新素材の磁場を観測すれば、電気双極子の反転を証明できるのである。「電場が磁場に及ぼす変化を検出することで、電子の電気双極子モーメントが実際に存在するかがわかる」とレジャイッチ氏は話す。
現在、この新素材を使用して電子の未解明の特性を検出する実験がアメリカ、コネティカット州ニューヘイブンにあるイェール大学をはじめ、いくつかの大学で進められている。
同様の実験を進めているテキサス大学オースティン校の物理学者ダン・ハインツェン氏は次のようにコメントしている。「実験は成功する見込みが高い。どの段階で成果が出るのかはわからないが、数年後には新たな研究結果が期待できる」。
Photograph courtesy NASA