October 23, 2009
船と衝突したと思われる体長20メートルのシロナガスクジラの死骸(写真)が10月19日、カリフォルニア州北部の切り立った断崖の谷間に打ち上げられた。
このシロナガスクジラを移動させることはできないが、研究の絶好の機会を得た研究者や学生たちが、細胞組織のサンプルを採取しようと岩を這い降りている。最終的には長さ3.5メートルのヒレのひとつを採取する予定である。
米国海洋水産局の海洋生物学者ジョー・コルダロ氏によると、カリフォルニア沖では近年まで比較的少なかった船との衝突が、今では「シロナガスクジラに人間が与える最大の脅威」となっているという。今回の衝突は、カリフォルニア沖で船がシロナガスクジラに致命傷を負わせた事故としては今年で2件目だと同氏は説明する。
世界最大の動物であるシロナガスクジラは最大で体長30メートルにまで成長する。1966年に捕獲が禁止されるまで乱獲が続き、現在では絶滅の危険性が極めて高いとされており、国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種に指定されている。
10月19日、海底地図を作成中の海洋水産局の船からコルダロ氏の元に一報が入った。岸から約11キロの海域で「船底に振動を感じた」のだという。
そのすぐ後、クジラが大量の血を流しながら浮上してきたとコルダロ氏は語る。数時間後、フォートブラッグ市近くの海岸にシロナガスクジラが打ち上げられているのが発見された。タイミング、場所、まだ新しいスクリュー痕などから考えて、海底地図を作成していた船と衝突したことは疑いようがないとコルダロ氏は語る。
ハンボルト州立大学の哺乳類学者ソアー・ホームズ氏(写真、クジラに乗る人物)は次のように話す。「私は皆と同じようにクジラの死を残念に思っている。しかし、死後間もないメスのシロナガスクジラの死骸が、手の届く場所で発見されたのは(研究者にとっては)素晴らしいことだ」。
10月20日にホームズ氏は2人の学生を車に乗せ、数時間かけてこのシロナガスクジラの調査にやってきた。岩を恐る恐る這い降りると、同氏は勇み立つ学生たちに、危険だからその場を動かないようにと指示した。「まあ、言う事は聞かないぞと顔に書いてあったがね」。結局、学生たちは波打ち際に近い場所から回り道をした。
現場に着くと、ホームズ氏らは脂肪のサンプルを採取した。これを調べれば衝突前のこのクジラの健康状態が明らかになるという。「この良質で分厚い脂肪層を見ただけで、このクジラの健康状態が非常によかったことがわかる」。
海洋水産局のコルダロ氏によると、このシロナガスクジラはフォートブラッグの海岸に放置されることになる。断崖に車輌が近づけないため、「あのクジラはどこにも移動できない」という。
しかし、クジラの調査は引き続き計画されており、数日中にヒレのひとつを採取することも予定されている。ハンボルト州立大学では、クジラ、イルカ、ネズミイルカといったクジラ目の動物のヒレを比較する研究が現在行われており、今回のヒレの採取はまさに“棚ぼた”となりそうだ。同大学では、この貴重な標本の調査に派遣する学生を増員する予定で、研究のために毛包(毛根を包んでいる部分)の確保を希望している皮膚科学者もいるという。
ホームズ氏にとってこの標本は、大きな科学的発見を期待できるものであると同時に、シロナガスクジラを絶滅寸前に追いやった人間の所業を思い知らされるものでもある。「シロナガスクジラが打ち上げられたことで、私たち人間が地球にとって悪者だということが、またしても証明されたのだ」とホームズ氏は話している。
Blue whale photograph by Larry Wagner, AP