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深海に生息するイカは複雑な生殖行動を見せるが、今回新たな研究によって、イカの奇抜な交尾方法が明らかになった。
今回の研究では、世界中の海に分布し水深300~1200メートル付近に生息する10種類のイカを対象に調査が行われ、これまで知られていなかったようなイカの繁殖戦略が多数報告された。
研究チームのリーダーを務めるのは、オランダにあるグローニンゲン大学で博士課程に在籍中のハンク・ヤン・ホービング氏。博物館に保存されているイカの標本だけでなく、調査航海中に捕獲したイカについても検証した。
その結果、発光器を持つことで知られるヒロビレイカのオスが、くちばしや鋭いツメで交尾相手のメスに深さ5センチほどの傷を付け、陰茎のような突起を使って、その傷の中に精子束あるいは精包と呼ばれる精子の塊を注入することが判明した。また、ミナミニュウドウイカのオスから放出された精子束は、メスの体に付着すると、体に穴を開けて体内に潜り込むことも分かった。
ホービング氏は、「精子束はそれ自体に、表皮を突き抜ける働きがあるようだ。おそらくは組織を溶かす酵素のような物質が作用しているのだろう」と話す。
また今回の調査では、性転換するイカ(学名:Ancistrocheirus lesueurii)が初めて確認された。このイカのオスは、体の大きさや外見をメスそっくりに変化させることがあるが、今回の調査ではそれだけでなく、体内にメスの生殖腺を形成しているオスが見つかった。
オスがメスに変化する理由についてホービング氏は、1つの可能性として、交尾の相手を探すためにメスの群れの中に紛れ込むという目的があるのではないかと推測する。あるいは、人間の避妊薬に含まれる水溶性物質をはじめ、魚類や両生類に影響を与えることが知られている“性差をかく乱する”汚染物質が、イカにまで影響を及ぼしている可能性もあるとホービング氏は指摘する。深海の食物網にも汚染物質の影響が徐々に現れているという指摘は、これまでの研究でもなされていたという。
また、イカの卵子が体内で受精する事例も初めて確認された。イカの受精過程はいまだ謎に包まれた部分が多いが、一般に、メスのイカは水中に産卵し、そこへオスが精子を放出することで受精が行われると考えられている。
だが、Heteroteuthis disparという学名を持つ小型のイカのメスを調べたところ、体内に精子を貯蔵する袋があり、それが卵子を輸送する卵管につながっていることが確認された。ホービング氏は「イカの受精は通常、体外で行われる。しかし、このイカは体内で受精できるようだ」と話す。
フォークランド諸島にある政府の漁業関係機関でイカの研究を行っているウラジミール・ラプチコフスキー氏は、今回の発見を「目覚ましい成果だ」と賞賛している。
ホービング氏の共同研究者でもあるラプチコフスキー氏は、「タコなどの八腕類で体内受精が行われることは知られていたが、イカの仲間で体内受精が確認されたのは今回が初めてだ。このような進化的新奇性を誰が想像していただろう」と話す。
アメリカ、ワシントンD.C.にあるスミソニアン国立自然史博物館のマイク・ヴェッキオーネ氏も、イカの体内受精が確認されたことに驚きを隠せない。同氏は、メスの特質を備えたオスのイカが発見されたことについて「これまでに前例がない」と語る。ヴェッキオーネ氏によれば、深海の生物には、奇抜な繁殖戦略はよく見られることだという。
「例えば一部のアンコウのオスは基本的にメスに寄生する。メスを探し出すと体にかみつき、オス自身がメスに寄生する精子袋と化してしまう。深海は、想像を絶するほど広大な環境である。オスが1匹の交尾相手を見つけ、受精が行われるまで行動を共にするというのは、たやすいことではないのだ」。
Photograph courtesy V. Laptikhovsky

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