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「なんだあれは」と、遠くを指さして人の注意を逸らし、財布やバッグを奪うという窃盗の手口がある。古典的と言えるほど使い古された方法なので、人間社会ではもはや通用しないかもしれないが、フサオマキザルの社会ではまだまだ十分に通用する方法だという。
仲間のエサを奪うのはもちろん良くないことだが、このような仲間を騙す行為は霊長類の進化に大きく貢献したと考えられている。そこで、ニューヨーク州立大学ストーニブルック校で人類学を研究する大学院生、ブランドン・ウィーラー氏はフサオマキザルを実験対象に、人間以外の霊長類も詐欺行為を働くのかどうかを調査した。
アルゼンチンにあるイグアス国立公園の木立にエサ台をいくつも据え付け、フサオマキザルの好物であるバナナのスライスを大量に置いた。
この実験では、フサオマキザルが集まってバナナを食べている最中に、群れの中での序列が比較的低く、なかなかエサにありつけない個体がときおり大きな叫び声を上げる様子が確認された。捕食動物の侵入を仲間に知らせる警戒の鳴き声である。
しかしそのような声が発せられても、周囲に危険を確認できたことはほとんどなかった。そして、ウソの警戒音を発した個体は、エサ台を独占していた有力な個体がバナナを置いて逃げ出したすきに、バナナをかき集めて奪っていったのである。
ウィーラー氏は次のように解説する。「フサオマキザルの騙しのテクニックが意図的かどうかは今のところ不明だ。本当に脅威を感じて警戒声を発したが、すぐに危険が存在しないことに気付き、直後に関心がエサに移っただけという可能性も十分にある。そのようなことが数回続けば、地位の低い個体は警戒声を上げることで自分が得することを学習し、捕食動物が近くにいない場合でも嘘の警戒声を発するようになるかもしれない。ただしそれを確認するには、今後も研究を続ける必要がある」。
また同氏は別の可能性として、「この場合の警戒声に実質的な警戒の意味はなく、“ある種の罵詈雑言”として発せられているだけかもしれない」とも述べている。
通常、フサオマキザルは捕食動物に遭遇した場合など、強いストレスを感じたときに警戒声を発するという。
「実験のような状況でも、序列が低い個体は強いストレスを感じているのではないだろうか。目の前に好物が豊富にあるのにおあずけをくって、有力な個体が食べているところを指をくわえていることしかできないのだから」とウィーラー氏は指摘する。
そのストレスが高まると叫び声が発せられるようになり、それを仲間が警戒声と勘違いしている可能性もある。同氏によると、この仮説が正しいかどうかは、フサオマキザルのストレス・ホルモンを測定することで確認できるかもしれないという。
今回の研究成果は、「Proceedings of the Royal Society B」誌のオンライン版に6月3日付で掲載された。
Photograph by Lisa Maire/Keystone/AP

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