オオカミは絵本などで黒く恐ろしいイメージとして描かれる事が多いが、北アメリカで黒いオオカミが増えた理由は、人間が飼い慣らしていた家畜犬と関係があるらしいという最新の研究成果が発表された。それによると、灰色の毛並みを持つハイイロオオカミの中には黒っぽい個体が存在するが、それらの遺伝子が家畜犬に由来しているのだという。
イヌがオオカミの亜種であることはよく知られているが、今回発表された研究結果は、進化の系譜に逆行があったことを示唆している。もっとも、今回の研究に参加したカリフォルニア州にあるスタンフォード大学の遺伝学者グレッグ・バーシュ氏によれば、オオカミの遺伝子が変異したとしてもイヌに似た姿になったわけではない。
「毛並みが黒いといっても、それ以外はハイイロオオカミと変わるところはない」と、同氏は話す。だが、イヌから受け継いだわずかな遺伝子の働きによって、黒毛のオオカミにはなんらかの選択的優位性が付与された可能性もある。
北アメリカ大陸に生息するハイイロオオカミの群れの中で、毛並みが黒っぽい個体は少なくて10%、多いと70%を占める。黒いオオカミは、北アメリカ大陸を除けばイタリアにしか存在しない。
これまでの研究で、鳥や魚、ウサギなどさまざまな動物では、体表面の色を黒くする特定の遺伝子変異が確認されている。しかしバーシュ氏らは、オオカミやコヨーテの同じ遺伝子変異を調べているときに、この変異がイヌ科の動物の毛色には影響を及ぼさないことを突き止めた。
代わりに、ワイオミング州にあるイエローストーン国立公園やカナダの北極圏に生息しているオオカミやコヨーテから、イヌが持つ遺伝子を発見した。これこそが体毛を黒くする遺伝子であった。バーシュ氏らによれば、数千年前、おそらくはアメリカ先住民が飼っていたイヌと数頭のオオカミが交配し、両者の遺伝子を受け継いだ雑種が誕生したのだという。
コロラド大学ボルダー校で生態学および進化生物学を研究しているマーク・ベコフ氏は、今回の研究で得られた遺伝子データについて、「申し分のない成果だ」と話す。
だが、今回の研究で解明できなかった大きな疑問もいくつかある。例えば、毛並みの黒いオオカミはなぜ森の中に生息する傾向があるのか?これについてバーシュ氏は、「薄暗い森林で身を隠すことができるからだと考えるのが自然だろう」と推測する。
しかし、生態学的な研究によれば、オオカミが体色で獲物の目を欺きながら狩りをすることはない。そうなると、毛並みに影響する遺伝子配列があるとしても、発現する方向で進化が進むことにはならないだろう。「興味深い考えだと思う。人間にも同じ遺伝子があるが、こちらは病原体の感染を防ぐための免疫機能を高める働きを持つことが分かっている」と同氏は述べた。
今回の研究成果は、保全生物学の分野でも、遺伝子の多様性に関する従来の考え方を改めるきっかけになるのではないかとバーシュ氏は言う。「生物種の多様性が維持されるためには、自然個体群の純血が保たれなければならないと考える研究者もいるかもしれない。だが今回の研究結果は、家畜化された動物との交雑によって遺伝子の多様性が保たれた一つの実例といってよい」。
今回オオカミからイヌの遺伝子が発見されたことについて、ベコフ氏は、「何をもってオオカミと呼ぶのかという問題を提起するものだ。野生動物とは何か、そしてそれらの種をどのように保護すべきかについて、われわれは考え直すことになるだろう」と指摘している。
Photograph courtesy Monty Sloan; Wolf Park, Battle Ground, Indiana, via Science









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