熱帯の風が優しくヤシの葉を撫で、白浜にターコイズ・ブルーの波が打ち寄せる。その下には色鮮やかな魚たちの集うサンゴ礁。非の打ちどころのない、まるでポストカードのような光景だ。それなのに海洋生態学者エンリック・サラは警告する。「豊かに見えても、生態系は窮地に陥っているかもしれない」。
極端な意見のようだが、ここキングマン・リーフの自然をつぶさに観察したサラの実感だという。彼はナショナル ジオグラフィック協会のエマージング探検家として、キングマン・リーフをはじめとするライン諸島の環礁や島々を近年2度にわたって調査してきた。ハワイ諸島の南1600キロの太平洋上に浮かぶライン諸島は、赤道をまたいで南北に広がっている。
キングマン・リーフのように手つかずの自然が残る場所では、太古の地球の姿をいまも見ることができる。これまで開発で失われたほかの地域の自然がどれほど変わり果てたのかを知るための基準としても、保護計画で目標とする青写真としても貴重な環境だ。
「これほど条件のそろったサンゴ礁は世界でも50ほどしかない」とサラは語る。彼がこの諸島を調査地に選んだのは、環境に人間が及ぼす影響を見るためだという。無人のため、人の手で荒らされることのないキングマン・リーフと、人口5000人を超えるキリスィマスィ島(クリスマス島)の悪化した環境とを比較調査しているのだ。
キングマン・リーフは、一周50キロほどの三角形のような形をしている。三角で囲まれた領域はラグーンで、マンハッタン島と同じくらいの広さだ(山手線の内側とほぼ同等)。海上に顔を出している部分は、日光で白く変色したサンゴのかけらでできている。植物が育つような真水もないため、ほかにはミル貝の貝殻がころがっているばかりだ。それにひきかえ、海面下にはまれに見るほど豊かな自然がある。
柱状サンゴやコエダミドリイシ、クサビライシ、プレートコーラルなどが色鮮やかに海底を埋め尽くし、下にあるはずの砂地がほとんど見えないほどだ。その間を矢のように泳ぐタカサゴの仲間たち。チョウチョウウオやスズメダイの仲間、ブダイの仲間など、ほかにもさまざまな熱帯魚がひしめく。魚たちはプランクトンや藻を食べ、サンゴをかじって成長する。サンゴ礁の生態系が構築されているのだ。