Joel K Bourne, Jr.
Photograph by Robert Clark
うだるような暑さの6月の午後、バージニア州の港町ハンプトンの海岸通りに群衆が集まっていた。人々が取り囲む中に即席の手術台が置かれている。18世紀のボロ着に身を包んだ哀れな海賊がこれから足を切断されるところだった。
4人の屈強な男たちに押さえつけられ、叫び声を上げて身もだえする。楽しそうに見つめる観客たち。やがて負傷した足が切り落とされると、代わりに木製の義足が縛り付けられた。突然、芝の向こうから堂々と歩いてきた大男に観衆の目が釘付けになった。血の色のサッシュを腰に巻き荒々しい黒いあごひげを生やしている。男の腫れぼったい目は乳母車を押す若い母親の上で止まった。片方の毛深い眉が釣り上がる。「いい女がいるじゃねぇか」。怒鳴り声が砲声のようにとどろいた。「ガキの方も悪くねぇな」。
今年もまた「黒ひげ」が祭りの主役として帰ってきた。ハンプトンで毎年開かれる「黒ひげ海賊祭」は模擬戦や剣術の演技、風変わりな“足の切断ショー”など、海賊の生活やその時代を再現するお祭りだ。
黒ひげ(Blackbeard)は、『ピーターパン』のフック船長や『宝島』に登場する一本足のジョン・シルバーのモデルとされている。映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』でジョニー・デップが演じた粋なドレッドヘアのジャック・スパロウ船長から、ハンプトンの祭りでベン・チェリーが扮する大威張りの物まね芸まで、ひげもじゃの大男のイメージはいまでも人気を誇っている。
黒ひげが陰惨な最期を迎えたノースカロライナ州の近くでは、彼の人生の新たな手掛かりを求めて考古学者チームが沈没船を探査中である。ぺンシルバニア州からカリブ海までを恐怖に陥れた黒ひげだったが、ノースカロライナ沿岸では歓迎を受けた。親しみの心は今日まで続き、安物の雑貨店から宿屋、酒場にいたるまで、彼の思い出に敬意が表されている。この大胆不敵な悪党は、突如として歴史の舞台に現れ、決して降伏することなく、最後はマスケット銃の弾丸を浴びて倒れた。船外に投げ捨てられた彼の死体は船の周りを3周してから沈んでいったといわれる。その魂と同様に、彼の伝説もまた滅びることはないだろう。