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環境と自然

暮らしを支える燃料電池

一般家庭に設置された家庭用燃料電池システム「エネファーム」
写真提供:パナソニック株式会社

2009年5月、東京ガスや新日本石油(現JX日鉱日石エネルギー)などが世界に先駆けて、家庭用燃料電池「エネファーム」の一般販売を開始し、燃料電池は私たちにとってより身近なものとなりつつある。すでに市場に導入された燃料電池がある一方で、さらに小型の燃料電池の開発も進んでいる。第3回では、暮らしを支える燃料電池として、家庭用燃料電池と小型燃料電池を取り上げたい。

市場化までの道

家庭用燃料電池の歴史を振り返ると、記念すべき第1号機は2005年に首相公邸に設置された2基である。また同年から、世界初の試みとなる家庭用燃料電池の大規模実証事業が開始され、4年間に渡り3307台の家庭用燃料電池が一般家庭に設置された。この実証事業により安全性やCO2削減効果が実証され、性能と信頼性の向上が確認されたことで、一般販売への道が拓かれることとなった。

一般家庭に届いた「エネファーム」

「エネファーム」という名称は、家庭用燃料電池の認知向上を推進するために2008年に採用された各社共通の統一名称だ。エネファームは現在、東京ガス、大阪ガス、JX日鉱日石エネルギーなどが販売を行っており、システムの製造はパナソニック、東芝燃料電池システム、ENEOSセルテックなどのメーカーが担当している。ガス会社から販売されるのは、発電の燃料である水素を都市ガスから改質して利用することが現在主流だからだ。

販売されているエネファームの性能や価格は各社で異なるが、発電出力は1kW以下、価格は最高346万5千円となっている。個人負担額を軽減するため、政府による設置補助金(上限130万円/台・平成22年度の場合)も用意されている。燃料電池普及促進協会(FCA)によると、2009年度に補助金が申請された家庭用燃料電池の台数は個人、法人を含め2010年3月末時点で5258台に達している。

電気と排熱を賢く利用するシステム

エネファームのシステム構成

エネファームがこれまで紹介した燃料電池と違う点は、化学反応の際に発生する熱も給湯に利用するコージェネレーションシステムであることだ。

エネファームについて伺うため、東京ガスのショールームを訪れた。「エネファームは、発電した電気は家で消費し、お湯はタンクに貯めていく仕組みになっています。水は水道から補給し、その水を発電の際に出る排熱で温めているのです。東京ガスの場合、貯湯は摂氏60度で200L貯められるようになっています。200Lというと一般家庭で1日に使用するお湯の量より少ないように思われますが、実際は、60度のお湯を水道水と混ぜて40度程度で使用するため、適量のお湯が提供可能となっています」と東京ガス・燃料電池事業推進部の担当者は説明してくれた。

最適化されたシステム

エネファームの優れた点は、高いエネルギー効率にある。エネファームで1kWh発電時、一次エネルギー消費量では従来システム(火力発電+ガス給湯器)と比較して約30%削減される。また、CO2排出量も約45%削減される(発電に必要な水素を都市ガスから取り出す過程でCO2を排出するため、CO2の排出量はゼロではない)。

エネファームのさらに優れた点は、最も効率良く運転するよう、学習運転システムが最適化されている点にある。エネファームは設置された家庭の生活パターンを学習し、お湯が使用される時間帯を考えた上で、稼働時間を自動調整しているという。

ただし、エネファームの発電量は1kWにしているため、電力を多く使う時間帯になると、燃料電池からの発電に加え、商用電力も使うことになる。「技術的には、1kW以上作ることは可能ですが、発電量を増やすとそれだけ排熱も多く出ることになります。また、家庭の電力消費ピークの時間はそう長く続くものではありません。つまり、一般的なご家庭の場合では、年間を通じて1kW程度の発電出力が適当と考えております」。そのためエネファームは、中高生くらいの子どもがいる家庭のように、200Lの貯湯を使いきれる家族構成の家庭で利用する場合が最もエネルギー効率が高くなるという。

「見える化」で生活はどう変わるのか

情報が視覚化されるエネファームのリモコン

エネファームの設置でもたらされるメリットには、壁に設置されたリモコンによって発電量を実感できるという点も挙げられる。このリモコンにより、普段生活する中で意識してこなかった電力の使用量が視覚化され、電力会社からの購入量も一目でわかるようになる。そのため、節電しようという気持ちも自然と生まれてくるという。「私たちは普段、自分たちが使っている電力量がどれくらいなのか、あまり知らないものですが、「見える化」することで、各家電で使用する電力量を意識して、節電を心掛けるようになります」と担当者はそのメリットを説明する。

一番気になるコストパフォーマンス

東京ガスでは、エネファームを使用すると年間で約5~6万円の光熱費が下がると試算しているが、現在の投資額から考えると、まだ初期コストを回収できない状況にある。「しかし、効率はかなり高いところまで達していて、性能としてはほぼ完成形です。今後の製品では、価格を下げることを目指しています」と担当者は話す。

他システムと比較して

情報が視覚化されるエネファームのリモコン

発電システムを導入しようとしている家庭で、エネファームとの比較対象となるシステムとしては、ガスを利用して発電するコージェネレーションシステム「エコウィル」と、太陽光発電システムが挙げられる。

エネファームとエコウィルは、コージェネレーションシステムである点は同じだが、エコウィルは都市ガスを燃料としたエンジンで発電を行う。小型のガスエンジンを用いた発電であり、エネルギー変換の際のロスが大きいため、発電の効率はエネファームのほうが良い。また、エコウィルは発電時にエネファームよりもたくさんの熱ができるので、お湯を多く使う家には向いているというケースもある。エネファームは、CO2削減効果ではエコウィルの約2倍と優秀であるが、その分コストに課題が残っている状況だ。

情報が視覚化されるエネファームのリモコン

一方、すでに普及し始めている太陽光発電システムと比べると、エネファームは価格で遅れをとっているものの、天候に左右されないため、安定したエネルギー源として今後の普及が期待される。またエネファームは給湯も兼ね備えたシステムであるため、電力のみならず、家庭全体のエネルギー消費を抑える仕組みとしては、その全体像を把握しやすく、管理しやすいという点にもメリットがある。

また、エネファームと太陽光発電は併用することで実現するメリットもある。エネファームと太陽光発電のダブル発電を導入すれば、太陽光発電システムのメリットである「売電」を増やせる上、光熱費、CO2排出量も削減することが可能となる。

より小型化を目指す燃料電池

モバイル燃料電池「Dynario」

「エネファーム」が一般発売される一方で、より小型の燃料電池も開発が進められている。東芝は小型燃料電池の開発を牽引してきた会社の1つだ。昨年、ダイレクトメタノール方式を採用したモバイル燃料電池「Dynario」※1 を商品化して、世に送り出している。ダイレクトメタノール方式とはPEFCの1種だが、水素ガスではなく、水と反応すると水素イオンを生成するメタノール水溶液を直接注入する。メタノールが直接電極で化学反応し発電するため、水素の改質器が不要となり、大幅な小型化が可能になった。

「Dynario」は、カートリッジに入った燃料(メタノール)を補充することで燃料電池が発電を行い、携帯電話や音楽プレーヤーへの充電がいつでもできる便利な装置だ。東芝・部品材料統括部の技師長である上野さんは、「Dynarioは、今まで捉えられなかった特別なユーザーのニーズを満たすことができます。例えば、道路工事をやるにしてもパソコンは必要となるわけで、フィールドで働く人にとってはぜひ欲しい商品となるでしょう」と話す。

次の応用先は…

市場に投入されたばかりのDynarioは、小型燃料電池の最終形態というわけではないと上野さんは言う。今後東芝が開発を検討しているのは、スマートフォンと一体化させて、充電なしで使える機種だそうだ。ブラックベリーやiPhoneなどのスマートフォンは、一般的な携帯電話に比べ1.5~2倍の大きさの電池が入っているが、消費電力が大きいため電池切れが起こりやすいのが現状だ。

「今は、携帯の充電が切れてしまったら、コンセントにつなげて充電しなければなりませんが、燃料電池を使えば、充電したいときに燃料を継ぎ足せば充電ができます。場所に拘束された充電を気にしなくてよくなると、精神的にとても楽になると思います」と上野さんは話す。

今後の小型燃料電池の普及のためには、燃料カートリッジをどこでも購入できる供給体制の整備と、購入しやすい価格であることが必要だ。そのためにはカートリッジの規格の標準化が必須だという。また、メタノールは危険物として扱われており、その持ち運びにはさまざまな規制がかけられている。つい最近まで飛行機の機内持ち込み可能リストにも入っていなかった程だ。メタノールを利用する小型燃料電池の普及のためには、さらなる規制緩和も必要となってくる。

今後の課題は、小型でも出力のある燃料電池をより安価で提供すること。そして発電効率を高め、どこにでも応用できるよう開発を進めていく方針だという。今後どのような商品に内蔵されるのか楽しみだ。

※1 2009年10月から東芝のウェブサイトで販売を開始し、2010年3月に販売終了した。

身近になり始めた燃料電池。
次回は、究極のエコカーとも呼べる燃料電池自動車を紹介しよう。

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図『 エネファーム、エコウィル、太陽光発電システムの比較 』 参考サイト:


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