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環境と自然

実用化を目指す燃料電池車

第4回では、燃料電池車の可能性について、電気自動車と比較しながら見てきた。将来的にはエコカーの未来を担う存在となり得る燃料電池車だが、現状ではどこまで実用化が見えているのだろうか。そして、乗り越えるべき課題とは何なのか。

実用化はいつ?

FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ 出典:燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)2010年3月

燃料電池車の普及に当たっては、燃料電池車本体の開発とともに、水素ステーションなどのインフラの整備が必要となる。燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が2010年に発表したロードマップによると、燃料電池自動車と水素ステーションはともに、2015年の一般普及開始を目指しており、2025年に燃料電池自動車と水素ステーションの自立拡大が開始する予定となっている。そして、2030年頃までに本格的な商用化が始まることが期待されている。順調に普及が進んだ場合、2025年には水素ステーションが1000箇所程度、そして燃料電池自動車は200万台程度にまで拡大している想定だ。今年8月にトヨタ自動車が発表した2015年までの第5次「トヨタ環境取組プラン」には、燃料電池自動車を2015年までに中距離用として商品化することが盛り込まれており、メーカー各社も力を入れていることがわかる。しかし、これを実現させるためには、まだ多くの課題が残っている。

インフラの整備が急務

JHFC横浜・大黒水素ステーション

燃料電池自動車の普及のためには、まずインフラの整備が必要だ。第4回でも述べた通り、燃料電池自動車の燃料となる水素は一般向けに既存ネットワークの流通システムがなく、新規でインフラを整える必要がある。水素を充填するための水素ステーションは現在、実証実験用として全国に14基が設置されており、水素の供給やスタンドの運営方法が研究されている。14基のうち3基は協賛ステーションとして、企業とともに研究が行われている。

水素ステーションには2つのタイプがあり、水素の改質もステーションで行うオンサイト型と、水素を外部から輸送してくるオフサイト型がある。現在設置されているオンサイト型水素ステーションで採用されている水素製造方法にはいくつかあり、身近な都市ガス、LPG、灯油を改質する方法や、水の電気分解により水素を精製する方法などがある。一方、オフサイト型でも水素の輸送方法には複数ある。水素を液化水素にしてトラックで輸送したり、工場などで精製される副生水素をパイプラインで輸送するなど、いくつかの方法が検証されている。

水素の製造場所 出典:独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 よくわかる!技術解説

改質や輸送方法が異なれば、総合エネルギー効率もステーションごとに変わってくる。オンサイト型の場合、水素の製造過程で生じるヒートロスや水素改質率などが影響しエネルギー効率が下がる一方、オフサイト型でも費やす輸送エネルギーによって効率は左右される。輸送距離が短ければ、当然エネルギー効率は高まる。例えば、近隣の製鉄所で精製される副生水素を直接パイプラインで輸送している北九州水素ステーションでは、輸送時のエネルギーロスがほとんど発生しないため、エネルギー効率が他と比較すると高い。このように、改質方法や輸送の距離・方法によって総合エネルギー効率が変化するため、現在は複数の方式を採用し、エネルギー効率改善のためのデータ収集が行われている。

現在、オンサイト型の実証試験用水素ステーションの建設には1基あたり5~10億円かかると言われている。1億円程度で建設できる商用ガソリンスタンドとの差は大きい。水素ステーションの建設費用に幅があるのは、水素の圧縮率によって圧縮機の価格などが大きく変わるからだ。NEDOではこの商用水素ステーションの建設費を、普及期の2020年頃には約半分の2億円を実現するというロードマップを策定している。

建設を阻む規制の存在

建設費以外に、水素ステーションの普及を阻む要因として、法律による規制が挙げられる。規制によって、建設や設備維持が難しくなったり、一般の利用者が自由に利用できなかったりする場合がある。例えば、現在は10気圧(1MPa)以上の気体の扱いは、安全確保のため専門家の立会いが求められる。そのため、水素ステーションのメンテナンスや維持に高いコストがかかってしまう。また、安全性を考慮して、これまでガソリンスタンドとの併設が禁止されていたことも普及の妨げとなっていた。しかし、日本国内での規制見直しや緩和は徐々に進んできており、2005年3月には高圧ガス保安法、建築基準法、消防法が見直され、ガソリンスタンドに水素ステーションを併設することが可能となった。現在も2015年普及開始を念頭にした大幅な規制見直しの議論が政府の行政刷新会議の中で関係業界も交えて、続けられている。

ステーションの供給能力

水素を充填中の燃料電池自動車

さらに、水素ステーションの水素供給量も課題として挙げられる。現在オンサイト型の水素製造は、1時間に30~100Nm3という供給量であり、これは実証試験用として一日に20台から60台程度の車へ水素を補給できる量を想定しているからである。オフサイト型でもその供給量は一日数十台程度とされ、将来の実用ステーションとして利用するには今後供給量を増やしていく計画が策定される予定である。

ユーザーに影響する水素燃料の価格

水素ステーションの中の様子

ユーザーにとって気になるのは水素の値段だろう。水素はガソリンのようにまだ流通していないため、安定した需給価格を保つことが必要だ。JHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)の担当者は、「ガソリンプラスアルファくらいの値段でなければ消費者は導入しないだろう。プラス200円くらいが上限ではないか」と話す。そして、スタンドが負担することになる水素の実勢価格との差額は、政府による助成で補填する必要があると説明する。「一般ユーザーが負担するコストが非現実的になってしまうと、水素は燃料として採用されないでしょう」。NEDOによるロードマップでは、2020年頃の普及期には、水素の供給コストをハイブリッド電気自動車と競合できるコストまで引き下げることを目標としている。

ここまで水素インフラの課題について焦点を当ててきたが、今度は自動車自体の課題に触れてみよう。

燃料電池自動車はいくらで買えるのか?

開発が進んできているとはいえ、燃料電池車の価格は1台当たり1億円程度といわれ、まだ一般の消費者が手を出せるような価格帯ではない。燃料電池自動車については本体価格を下げることが必須である。製造原価が高くなる大きな要因は、システムコストの約60%を占めるというセルスタックにある。燃料電池の要となるセルには、触媒として高価なレアメタル(白金)が使用されており、現状では白金のコストだけでも、90kWの出力を持つ車で1台当たり40万~50万円にもなる。また、量産化がされていないセパレータや電解質膜の低コスト化も求められている。NEDOでは2020年の普及期までに、スタックをはじめ、生産コストを現在の半分までに削減することを目標としている。日産自動車の開発担当者によると、将来的には、販売価格をガソリン車に50万円程度上乗せする程度の価格帯を実現したいという。

各社の最新燃料電池車

ここで、現在自動車メーカー各社が開発している燃料電池車を見てみよう。燃料電池車はJHFCの施設で一般の方でも見学することが可能だ。今回見学させてもらったのはトヨタ、日産、ホンダの国内メーカー、およびダイムラー、そして唯一、水素エンジン車の開発を進めるマツダの5社だ。

各社の燃料電池自動車 / メルセデス・ベンツ「F-Cell」

1994年に、世界の自動車メーカーの中で最も早く燃料電池車の開発に成功したダイムラー社。その後、同社は世界各国で乗用車やバスでの実証実験を行っており、燃料電池車の開発に特に力を入れているメーカーの一つだといえる。国内メーカーとしては、トヨタが1992年に開発を開始して以来、小型車以外にバスも開発しており、2002年には燃料電池ハイブリッド車「トヨタFCHV (Fuel Cell Hybrid Vehicle)」を日本と米国で限定販売を開始。2003年からは都営バスで実証実験として営業運行を行っていた。日産は1996年にFCV技術の開発に着手しており、「Xterra FCV」で早期からアメリカでの公道実験に参加している。

一方、ホンダは1999年に実験車を公開し、その後改良が加えられた「FCX」は2002年に首相官邸とロサンゼルス市庁に納品されている。マツダは唯一、燃料電池自動車ではなく、水素エンジン車の開発を進めている。その開発は1991年に始まり、ガソリンと水素の併用が可能なデュアルフューエルシステムへ続き、現在はロータリーエンジンを発電機として搭載した水素エンジン車に進化し続けている。

試乗してみて

燃料電池自動車の内部

全5車種に試乗させてもらい、その乗り心地も体験することができた。まず実感したことは、モーター駆動であるため、どの燃料電池自動車もとても走りが滑らかなことだ。運転時の操作性はガソリン車と変わらず、快適に走行することができる。そして各社ともハンドル横にモニターが付いており、燃料電池で発電した電力を使用しているか、搭載している補助バッテリーの電力を使用しているかを一目で確認することが可能だ。市販のRV車を改造した燃料電池車特有の特徴を感じたのは日産の「X-TRAIL FCV」だった。プロトタイプのため、後部座席の下に水素タンクが設置されており、座席の位置が少し高くなっている。水素が搭載されていることが実感できた。しかし、水素タンクの配置は車種によって違い、ホンダFCX CLARITYなどはトランク後部にタンクを搭載しているため、座席部分は普通車と変わらない。改良が進む燃料電池自動車の乗り心地は、普通車と変わらないレベルである。

試乗では快適と思える燃料電池自動車でも、価格や耐久性についてはまだ課題が残っている。現在、前述の5社を含む国内外メーカー8社の車両がJHFCのプロジェクトに参加し、公道実験や燃費評価などの実証実験を行っている。

このように、すでに市場に投入された家庭用燃料電池「エネファーム」と違い、
燃料電池自動車ははるかに課題が多いといえる。
次回最終回では、燃料電池自動車を含め、
これまでに挙げてきた燃料電池の課題を克服するための糸口を紹介していきたい。

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