普及に向けた課題と解決への糸口
最終回となる今回は、燃料電池システム本体とインフラそれぞれの現状の課題に触れながら、その解決に向けた動きを紹介しよう。
コスト低減の大きな障壁
燃料電池の普及に向けた課題は各フェーズで様々なものがあるが、燃料電池システム本体の最大の課題はコストの低減だ。家庭用燃料電池エネファームや燃料電池自動車は、これまで性能を市場化できるレベルまで向上させるため、部品や材料劣化の原因究明を進め、システムの最適化と高性能化を図ってきた。しかしその一方で、仕組みは複雑化し、多くの貴金属を必要とするシステムになった。これがコスト高の要因となっている。今後は、現状の性能を維持したコストダウンが求められており、方法としては次の2つのアプローチが考えられる。
低価格化実現のための2つのアプローチ

まず一つが技術開発によるスタック材料の低コスト化だ。現在、家庭用燃料電池の製造コストの約20%、燃料電池自動車の約60%をセルスタックという部品が占めている。その中でも、化学反応を促進させる触媒となる白金がコストを増大させる一因となっている。現在家庭用や自動車搭載用の主流であるPEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell:固体高分子形燃料電池)方式では高価な白金が不可欠なのだ。
高価な白金使用量を減らす解決策は、白金触媒の飛躍的な高活性化または代替触媒の開発である。白金に代わる触媒としては、「カーボンアロイ触媒」という材料が注目されている。これまでの研究により、数%の窒素を含んだ炭素が主成分であり、白金触媒同等の触媒作用があることが究明された。群馬大学と共に研究に取り組んできた日清紡ホールディングス株式会社は、2009年に白金代替触媒としては世界最高レベルの発電性能を確認したことを発表しており、実用化への期待が高まっている。また、カーボンアロイ触媒以外の触媒として、酸化物系材料の研究も独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主導により行われている。
触媒(白金)以外にも、燃料電池の心臓部である電解質膜の材料や、セルを区切り水素や酸素を送り込む役割を担うセパレータなど、セルスタックの様々な部品の低コスト化が求められている。これらもNEDOが推進するプロジェクトのもと、産学連携により研究が進められている最中だ。
そして、コストダウンのために重要なもう一つの方法が量産化である。前述の材料費の削減は技術開発に頼るところが大きいが、最後には量産化が鍵を握る。家庭用燃料電池については、そのシステムコストの約70%が周辺機器のコストであるが、NEDOの担当者によると、その理由は市場に数が出ていないからであり、量産化によって改善するところが大きいという。また、基幹部品メーカーの担当者も、「コスト削減は量産効果でクリアされる部分が大きい」と語る。燃料電池の普及に伴い企業が量産化を始めれば、一気にコストダウンが図られるだろう。NEDOの策定したロードマップによると、家庭用燃料電池では、本格的な製造設備を導入した量産効果と技術革新によって普及期の2015年頃には、現状の200万円から50~70万円(10万台/年/社 生産ケース)に、そして燃料電池自動車のシステムでは、現状技術ベースで量産化技術の導入(量産50万台)を仮定すると現状の数千万円から100万円程度まで下がるという目標が出されている。

別の発電方式でコスト削減も
すべての燃料電池の中で潜在的に最も低コストで発電できる燃料電池として、現在主流となっているPEFCではなく、白金触媒が不要なSOFC(Solid Oxide Fuel Cell:固体酸化物形燃料電池)の活用もある。SOFCはスタック作動温度が摂氏700~1000度と高温となるため、家庭や自動車に利用するのは難しいと考えられてきた。しかし、発電効率の高さと燃料多様化への対応が可能、さらに、家庭用から大型事業用まで用途展開が想定されているため、注目が集まっており、現在研究が進められている。
SOFCの場合、セルスタックの周辺部品も高温条件下で機能する必要があるため、耐久性のある部材が求められるなど課題も残されているが、現在はこれを解決するため、SOFCを採用した家庭用燃料電池を様々な環境下に設置してデータ収集などを行う実証実験がNEDOにより行われており、実用化への動きが加速している。
続いて、インフラの課題を見ていこう。
水素ステーションの普及には何が必要か?

すでに市場に出ている家庭用燃料電池は、ガス会社などを通して運ばれてくる都市ガスなどの燃料をシステムに内蔵されている改質装置で改質して水素を得ているが、燃料電池自動車普及のためには水素を供給するインフラ整備が必須であり、現状で最大の課題は水素ステーションの建設である。
「水素ステーションの建設を阻害する大きな理由の一つに、日本独特の法規体系が挙げられます」とJHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)の担当者は話す。現在実証用に建設されている14基の水素ステーションは2005年の規制緩和で建設が認められたが、実際に商用化する場合には制約が多く、例えば住居地域では充填できる圧力に上限が規定されている。また、耐圧基準や建築基準が欧米より厳しい日本では、水素ステーション建設自体のハードルが高い。
さらに、現状では一般の利用者がガソリンスタンドと同じように快適に燃料を供給できる環境を整備するのが難しい。例えば、充填機はガソリンスタンドのような並列設置が許されず、高圧ガス保安法の規制で水素の取り扱いには必ず保安監督者が立ち会わなければならない。そのため、セルフスタンドを建設することができず、コストを押し上げる要因にもなっている。また、安全確保のため民家や火気取扱施設との間に一定の隔離距離を確保することが義務付けられており、これまではガソリンスタンドとの併設も不可能だった。しかし、これについては規制緩和が徐々に進み、工場地帯であれば一般ガソリン施設との隔離距離が6メートルに縮小されたため、効率的なステーション運営が可能となっている。

現在は多くの規制によって水素ステーションの建設が制限されているが、規制見直しに向けJHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)を始め、行政が積極的に動いている。「FCVの燃料である高圧水素ガスを、ガソリンと同じように扱えるようにたくさんの規制見直しが必要です。そのため、現在内閣府の行政刷新会議が中心となって水素関連法規の大幅な見直し作業が始まっています。2015年を目指して官民の活動が成果を出す頃、FCVの本格普及が始まります。今年4月からは内閣府の議論も活発化していて、規制見直しに向けた動きは加速しています」とJHFCの担当者は話す。
JHFCの実証プロジェクトはまもなく第2期を完了する。安全性や性能を実証した来年度以降は、いよいよ実用化に向けて官民共同で普及を押し進めていくフェーズに突入する。
政府による率先した普及施策がカギ?

燃料電池普及のためには、前述のとおり、技術課題の克服と量産化とともに、政府による積極的な政策が必要となっている。
すでに家庭用燃料電池については、政府による導入補助金が準備されている。平成22年度は、一台あたり上限130万円のシステム機器費と工事費が補助金として申請可能だ。家庭用燃料電池システムは現在定価で350万円程のため、補助金を利用することで、実質では220万円で導入可能となる。家庭用燃料電池の導入による光熱費節約効果は年5~6万円とされており、耐用年数は約10年のため、システム価格が大幅に下がらなければ消費者にとってはメリットが少ない。東京ガスの担当者もコストを下げることを第一の課題としている。補助金制度が整備されている今の時期に、燃料電池メーカー各社によるコストダウンと効率化が求められている。
さらに、環境税も大きな役割を果たす可能性が高い。総務省は今年9月、2012年に環境自動車税の創設を提案する報告書を公開した。エコカー減税に続く施策として、現在の自動車重量税と自動車税に、車の排気量と二酸化炭素(CO2)の排出量に応じた課税方法を組み入れることを検討するという。これが実現すれば、電気自動車に続き、燃料電池自動車の普及にも拍車が掛かるだろう。
一方、JHFCの担当者は、「水素の導入期であれば、CO2削減を加速するための施策として、何らかの補助をするという形で導入を促進していくという政策もあってしかるべきかと思います」と話す。かねてから炭素税創設が検討されているが、化石燃料に税金が掛けられることとなれば、水素はガソリンや軽油よりも優位に立つだろう。さらに、化石燃料を一切使用しない再生可能エネルギーから水素を製造する研究も進むことが期待できる。一方、JHFCの担当者は、「水素の導入期であれば、CO2削減を加速するための施策として、何らかの補助をするという形で導入を促進していくという政策もあってしかるべきかと思います」と話す。かねてから炭素税創設が検討されているが、化石燃料に税金が掛けられることとなれば、水素はガソリンや軽油よりも優位に立つだろう。さらに、化石燃料を一切使用しない再生可能エネルギーから水素を製造する研究も進むことが期待できる。
存在感を増す燃料電池
家庭用燃料電池や燃料電池自動車はまだ普及が始まったばかりだが、大規模燃料電池システムについてはすでに社会で大きな役割を担っている。下水処理場や工場などでは1995年頃からクリーンエネルギーとして採用されてきた。また、2008年にはその環境性や燃料の多様さから、非常用電源として使用することが消防法の改正により可能となっている。燃料電池の実力が認められてきている証拠だと言えるだろう。
家庭用燃料電池の一般販売も始まったことで、燃料電池は徐々に活躍の場を広げている。ホンダは2003年から、燃料電池自動車などへの水素燃料供給も可能なコージェネレーション機能を備えた家庭用燃料電池「ホーム・エネルギー・ステーション」の開発を行っているという。こうしたシステムが今後市場に出れば、家で発電と給湯のみならず、自家用車にも燃料補給できるようになるため、燃料電池自動車もより私たちの身近な存在となる。水素社会が実現すれば、生活の様々なシーンに燃料電池が登場するようになるはずだ。
将来的に太陽光や風力などの自然エネルギーからの水素を利用する燃料電池は、
これからのエネルギー問題と環境問題を解決し得る新たなエネルギー技術だ。
2015年の燃料電池自動車一般普及をはじめ、今後の燃料電池の普及に期待したい。









