燃料電池の歴史と原理
原理の発見は約200年前
今も開発の途上にある燃料電池だが、その歴史は意外と長い。燃料電池の原理が発見されたのは1838年、綿火薬(ニトロセルロース)の発見で知られるドイツ/スイスの化学者クリスティアン・シェーンバインによってだった。翌1839年には、イギリスの物理学者ウィリアム・グローブが初の燃料電池を製作している。グローブは水の電気分解の実験を行っている際に、偶然今の燃料電池で用いられている発電の仕組みを発見したという。しかし、発生する電力が小さい上、技術や材料の課題が多かったことから、当時は大きな注目を集めることはなかった。燃料電池がトラクターを動かせるほどの電力を生み出すまでに改良が進んだのは1950年代後半に入ってからである。その後も改良が進み、1960年代からNASAの宇宙計画で採用されたことは第1回にも述べた。
日本も次世代エネルギーとして注力

日本での燃料電池開発は1980年代になって本格的に始まった。当時日本では、70年代のオイルショックを受け、省エネルギー技術や新エネルギーの開発を目指して、「サンシャイン計画」や「ムーンライト計画」などという国家プロジェクトをスタートさせている。燃料電池も石油代替エネルギーとなり得ることから、研究開発が進められた。現在ではより高効率で小型のオンサイト型燃料電池(燃料電池を設置する場所で水素製造を行うタイプ)の開発や、コストを下げるための基礎材料研究が進められている。
日本の燃料電池の開発、実用化への取り組みは経済産業省を中心に進められ、活発な政策協議が続いている。資源エネルギー庁(経産省外局)では燃料電池を、「再生可能エネルギーの普及、エネルギー効率の飛躍的向上、エネルギー源の多様化に資する新規技術」であり、政策資源の重点投入を図るべき革新的なエネルギー高度利用技術の一つとしている。一早く市場に導入された家庭用燃料電池については、その普及を促進するため、設置に際して国の助成金も用意されている(家庭用燃料電池の詳細については第3回で取り上げる)。
「水の電気分解」の逆の仕組みとは?
燃料電池の仕組み
燃料電池は「電池」とついているが、乾電池のように電気を貯める仕組みではない。前回述べた通り、燃料電池は水素と酸素を化学反応させて電気を作り出す発電装置の一つだ。
燃料電池の原理は、中学校の理科の実験でおなじみの「水の電気分解」の逆の反応を利用している。水の電気分解とは、水(H2O)に電流を流すと水素(H2)と酸素(O2)に分かれる化学反応である。燃料電池はその逆で、水素を酸素と反応させることで水と電気を生み出す。
では実際どのように水素と酸素を反応させているのだろうか。燃料電池は、図のように水素を送り込む燃料極(負極)と、酸素を送り込む空気極(正極)からなる一対の電極が電解質を挟んだ構造となっている(図は代表的な燃料電池の種類である固体高分子形(PEFC)の場合)。
燃料極に水素の分子(H2)を注入すると、分子が電極で電子(e-)と水素イオン(H+)に分離する。分離した水素イオンは電解質を通り抜け空気極に移動するが、電解質を通り抜けることができない電子は燃料極に取り残される。電解質とは、電子を通さずイオンを通す性質を持つため、水素イオンのみを空気極へ移動させることが可能となる。取り残された電子(e-)は、両極をつないだ銅線から反対側の空気極へ渡っていく。このとき、正極から負極に向かって電流が流れる。
空気極へ渡った電子は、注入された酸素(O2)と電解質を通して移動した水素イオン(H+)を結合させ、水(H2O)を精製する。水素イオン(H+)が電解質を通るときに熱が発生し、電気とともに熱も生み出される、という原理となっている。
電解質によって異なる4つの種類

電極の素材と電解質は、化学反応を最大限に高められるよう相性の良いものが組み合わせて使われている。その種類は電解質の違いによって大きく4タイプに分かれ、それぞれ特徴を持っている。
家庭用燃料電池「エネファーム」をはじめ、燃料電池自動車の開発においても利用されているのが固体高分子型(PEFC)である。PEFCでは、電解質にフッ素系固体高分子膜を用いており、実物はサランラップのような見た目をした固体の薄膜だ。現在はデュポン社(アメリカ)の「ナフィオン」という商品が最も多く用いられている。
PEFCの特徴は、低温で化学反応が始まることである。摂氏80度で運転させることができるため、作動の切り替えが多い場合でも負担が少ない。その反面、高温運転タイプの燃料電池に比べると反応速度が遅く、発電効率が低くなってしまう。そのため、反応を促進するための「触媒」が必要となる。現在は白金(プラチナ)が用いられているが、希少金属であるプラチナは高価なため、燃料電池のコスト高の大きな原因となっている。家庭用燃料電池に使われるプラチナは数グラム程度だが、自動車用の燃料電池は100KWの電力を生み出すために白金も100g以上必要となってくるという。1g当たり5000円前後する白金の利用は、燃料電池普及における大きな課題の一つである。

PEFCと同様に低温で作動する種類は、リン酸型(PAFC)である。リン酸型は、リン酸水溶液という液体を電解質に用い、200度程度で発電する。1980年代から日本でもホテルや病院などでの大規模発電に利用されており、実績も豊富だ。
一方、高温で運転する燃料電池には溶融炭酸塩型(MCFC)がある。炭酸塩を650度以上の高温で溶かした液体が電解質として働く。炭酸イオンを用いるため、水素に限らずさまざまな燃料を用いることも可能である点が特徴だ。また、ガスタービンとのコンバイン発電(複合発電)を行うこともできるため、発電効率が優れている。
そして、最近注目されている高温運転の燃料電池として、固体酸化物型(SOFC)がある。発電効率が最も高いという特性を生かして、現在の火力発電所に代わるもの、もしくは家庭用として開発が進められている。しかし、SOFCは作動の切り替えに負担が多く、耐久性が問われている。現在はNEDOによる実証実験で全国に百数十台が設置されており、技術的課題となるデータ収集が行われている段階だ。
複数枚重ねて大きな電力を生み出す

ここまで燃料電池の種類を見てきたが、実際の燃料電池はどのような構造となっているのだろうか。燃料電池の最小単位は「セル」と呼ばれ、電解質を挟んだ一対の電極を、セパレータという部品が覆っている状態となっている。しかし、1つのセル(単セル)が作る電圧はわずか0.7~1.0V(一般的な乾電池の約半分)のため、実際にはセルを複数枚重ねた「スタック」にして用いられる。燃料電池自動車を開発している日産自動車の場合、400枚のセルを重ねて400Vの電圧を得ているという。
スタックで重要な部品となるセパレータは、水素と酸素を混合しないように効率良く供給するのみならず、生みだされた電気を集電板に伝える導体としての役割を持っている。その素材は大きく金属系と炭素系に分類される。金属系は、主にチタンやステンレスを使用し,導電性を確保するため金メッキを施している。しかし金は高価なため、低コスト化に向け、金属ガラスという新素材を用いたセパレータの開発も進められている。一方で、黒鉛などを用いる炭素系も、加工性、耐食性、伝導性を確保しつつ低コスト化を実現できるセパレータとして開発が進む。現在は炭素系セパレータを扱う日清紡ホールディングス製が最も普及している。
白金を含んだ電極、電解質、セパレータをいかに薄くつくれるかが燃料電池の小型化のカギとなっており、現在各社が力を入れて開発しているポイントだ。
第2回では燃料電池の歴史と原理を解説してきた。
次回は、最も身近な燃料電池、家庭用燃料電池「エネファーム」の現状に迫る。









