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エピソード5 「図鑑に載っていないカモ」~ハイブリッドガモ

 東京の都心部にくらす野生生物の多くは、他の地域の同じ生物にはあまり見られない、また、図鑑などにはあまり載っていない独特の生態を持っています。

マガモ(07年2月、東京都葛飾区水元公園)

マガモ(07年2月、東京都葛飾区水元公園)

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 たとえばセキレイ科の野鳥であるハクセキレイ。「コンサイス鳥名辞典」(三省堂、1988年)によると、「海岸や河川の下流部に生息し、昆虫を食べる」とされています。しかし、現在、東京の都心部で観察されるハクセキレイの多くは、駐車場や学校の校庭などに生息し、人間の与えたパンなどを食べています。また、セミ科の昆虫であるアブラゼミは、「葛飾の昆虫・クモ」(東京都葛飾区、1992年)によると、「出現期/7月~9月」となっていますが、最近私は、6月の後半や10月中でも、よく姿を目にし鳴き声を耳にしています。NHK総合テレビ「こんにちはいっと6けん」の撮影の下見に出かけた私の会社の社員が、まさに葛飾区内にある都立水元公園で、今年(2008年)のなんと11月6日に、鳴き声を確認しています。

 また、東京の都心部は、一般に考えられているよりもずっと野生生物の種類と個体数の多い場所です。私の20年以上にわたる自然の観察や調査の結果から考えて、たとえば哺乳類だけでも、アズマモグラ、アブラコウモリ、ノウサギ、カイウサギ、タイワンリス、マスクラット、カヤネズミ、ドブネズミ、クマネズミ、アライグマ、タヌキ、イタチ、ハクビシンなど10種類以上いますし、鳥類はその生息が豊かな自然環境が残されている証拠とされることも多いオオタカ、「水辺の宝石」と呼ばれることもあり人気の高いカワセミなどをはじめ、毎年のように100種類以上は確認されています。昆虫類などについては、正確な種類数を把握することなどほぼ不可能でしょう。おのおのの種の個体数もとても多い場合がたくさんあり、たとえばタヌキについては、特定非営利活動法人・都市動物研究会の行った2006年6月から2008年5月までの3年間に及ぶ調査結果から推測すると、東京23区内だけで少なくとも約1000匹いると言われています。

 そして、それらの中には、今まで存在しなかった、もしくは存在があまり目立たなかった生物も混じっているのです。それらのひとつがハイブリッドガモ(交雑したカモ)です。交雑とは遺伝的に異なる2個体を交配して雑種の子孫を得ることで、一般に、すぐれた能力をそなえた新しい品種や系統をつくり出すため、家禽産業で行われていることですが、自然界でも時おり起こり得ることです。「絵解きで野鳥が識別できる本」(叶内拓哉著、文一総合出版、2006年)によると、「カモ類やカモメ類など、いくつかの種類で交雑個体が観察されている」そうです。私自身も、残念ながら写真やビデオとして残すことはできませんでしたが、2007年4月13日江戸川区北小岩の江戸川河川敷で、ハクセキレイとセグロセキレイの交雑個体と思われる野鳥を確認しています。

 カモ類の交雑は、なかでも1番多く、過去にさまざまな種の組み合わせが観察されています。マガモとカルガモ、そして、ヒドリガモとアメリカヒドリの組み合わせがとくに多いと思われますが、そのほか私は、2004年1月18日に上野の不忍池で、トモエガモとオナガガモの交雑個体などを目撃しています。そしてそれらハイブリッドガモの個体数は、年々増加しているものと思われます。2002年10月から2003年3月までの都市動物研究会の調査によると、その期間、東京都23区内だけで合計5羽のハイブリッドガモが確認されています。その後、私の個人的な調査によると、2003年10月から2004年3月までが8羽、2004年10月から2005年3月までが11羽、2005年10月から2006年3月までが18羽、2006年10月から2007年3月までが26羽、2007年10月から2008年3月までが29羽となっています。ちなみに、ハイブリッドガモの発見個体数が多い場所のベスト(ワースト?)3は、前出の不忍池、練馬区にある都立石神井公園の石神井池及び三宝寺池、北区と板橋区にまたがる都立浮間公園の浮間ヶ池の順となっています。いずれも、公園管理者や自然愛好家などからの度重なる注意にもかかわらず、野鳥に餌をやる人の多いポイントです。

 基本的に自然界においては、「種」は交雑することはない(あってはならない)ことです。にもかかわらずこのような状況になる理由として、「カモ ハンドブック」(叶内拓哉著、文一総合出版、2000年)によれば「繁殖地が近いため、両種が非常に近い間柄であるため」などがあげられています。しかし、私には、もうひとつ重大な理由があるように思えてなりません。それは、日本における人間からの過剰な餌づけです。冬鳥のカモ類の多くは、日本に越冬のためと同時につがい形成のためにやって来ます。つまり、公園の池や流れの緩やかな大きな川の水面や岸辺は、カモたちの「集団お見合い会場」とも言えるのです。本来は、種類ごとにかたまって冬を越しているはずなのですが、人間による過剰な餌やりがくり返されることにより、さまざまな種類のカモが狭い範囲に集中してしまい、その結果、種間交雑のチャンスが増えるというわけです。

 一般に種間交雑では不妊であることが多いと言われています(「鳥類学辞典」昭和堂、2004年)。都心部のあちこちにいるハイブリッドガモの多くは、繁殖することができないのです。餌づけをする人の多くは、カモが好きだから、カモがかわいいからという理由でそのような行為を行っていることでしょう。しかし、目の前の1羽のカモの幸福を考えるより、その1羽のカモを含む生態系の幸せを願ってもらいたいものです。

(文と写真:佐々木 洋)

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